庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「コヴェナント/約束の救出」
ここがポイント
 兵器の威力の差で圧倒する場面、B29に竹槍で立ち向かう者が機銃掃射で皆殺しだったら気持ちよく見られるか
 実は一番描かれているのは、米軍の空手形に踊らされた通訳人の悲哀と米軍・政府の無責任で官僚的な対応かも
    
 米軍曹長を救助したためタリバンから懸賞金をかけて狙われたアフガン人通訳の救出を描いた映画「コヴェナント/約束の救出」を見てきました。
 公開3日目日曜日、配給会社のメイン館 kino cinema 新宿シアター1(294席)午前10時40分の上映は1割程度の入り。

 2018年、アフガニスタン駐留米軍のジョン・キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール)は、タリバンの武器倉庫と爆弾製造工場の捜索を続け、情報を得て基地から120km先の建物を急襲し爆弾製造工場を発見し時限爆弾を仕掛けたが、作業員から連絡を受けたタリバンが武装した兵士を多数派遣し銃撃戦となり、銃傷を受けたキンリーとアフガン人通訳アーメッド(ダール・サリム)だけが生き残った。アーメッドは、瀕死のキンリーを手作りの担架に乗せて、タリバンの追っ手をかわしながら山岳地帯を引きずり3週間をかけて米軍基地まで連れ帰った。4週間後意識を取り戻してさらに3週間を経てアメリカに帰国したキンリーは、アーメッドがタリバンから懸賞金をかけて狙われ、家族とともに姿を消したことを知り…というお話。

 ここまでは公式サイトや予告編で告知されているとおりで、この前半が思ったよりも時間をかけて描かれているのが少し予想外だった程度ですが、後半は、予告編で言われる「行方不明」「それは99.9%不可能な救出作戦」「単独行動」から想定される、キンリーが1人で何の手掛かりもないところからアーメッドを探すとか、1人でタリバンと戦うとかいうのとは、だいぶイメージが違います。具体的に指摘するともろにネタバレになるので止めておきますが、キンリーの元々の計画通りなら別にキンリー自身がアフガニスタンに赴く必要さえなかったはずで、まぁその方が現実的ですが、そこがわかったときには、おいおいと思いました。

 キンリーの「チーム」、腕がいいんじゃなくて、ただ装備が桁違いというだけと思います。火力/兵器の威力で圧倒するシーンは米軍らしい「力の正義」を見せつけられます。あくまでもタリバンは絶対悪という前提で、観客にカタルシスがあるのかも知れませんが、B29に竹槍で立ち向かおうとする者たちが機銃掃射や焼夷弾等で皆殺しにされるシーンだったら気持ちよく見られるでしょうか。私は、このシーンに至り、醒めてしまいました。

 アーメッドを助けるためにアフガニスタンに行く前にアーメッドと家族のビザを取ろうとして掛け合い、動かぬ官僚組織を前に35日間にわたり電話で怒鳴り続けるキンリー。そうしているうちにアーメッドたちが殺されているかも知れないと考えるなら、まずは救出してビザなしでもアメリカに送り込み難民申請すれば、米軍兵士を救った英雄でしかもアメリカ政府の宿敵のタリバンから懸賞金をかけて命を狙われているというのですから、難民認定するんじゃないでしょうか、いくら移民嫌いのトランプ政権でも(むしろ米軍兵士を救った英雄なら喜んで特別扱いしそう)。
 実はこの作品で一番描かれているのは、通訳人として米軍に協力すればビザを与えるという米軍の空手形に踊らされたアフガン人通訳の悲哀と、米軍とアメリカ政府の無責任で官僚的なふるまいなのかも。
(2024.2.25記)

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