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たぶん週1エッセイ◆
映画「デトロイト・メタル・シティ」

 大分の農家の息子がおしゃれ系のミュージシャンを夢見て上京したけど心ならずも悪魔系のバンドのリーダーとして活躍してしまい葛藤する様子を描いたコメディ映画「デトロイト・メタル・シティ」を見てきました。
 原作はヒットしているコミックスだそうですが、私は読んでいません。8月23日封切りで、30日間の興行収入が20億円突破だそうです。6週目の日曜日、朝9時30分(日曜の朝そんな時間に誰が映画見に行く?)ではさすがにすいてました。客のほとんどが若者で、おじさん比率がかなり低い映画です。

 小沢健二あたりに憧れるおしゃれ系ミュージシャンになりたい根岸崇一(松山ケンイチ)、Mステに出るのが夢のミーハーの和田真幸(細田よしひこ)、不気味なブルマオタクの西田照道(秋山竜次)の3人の悪魔系ヘビメタバンド「デトロイト・メタル・シティ」としての活動と実生活の落差が、映画の基本的な見せ所となっています。特にリードヴォーカルのヨハネ・クラウザーU世と根岸崇一の対比・落差がかなり戯画的に描かれています。
 それを受けて、大学時代、人に夢を与える音楽活動をやりたいと言って、おしゃれ系のミュージシャンを目指し、大学卒業後街頭で歌うが見向きもされず、しかし自分の本意ではない悪魔系バンドでは大ヒットしている根岸のやりたいこと・なりたい自分とやってること・現実の自分のギャップへの悩みが基本的なテーマとなります。ただ、映画の最初の段階から繰り返される根岸のスローガン「No Music No Dream」(音楽で夢を与えたい)と、デス・レコーズの新人募集のスローガンが同じことに示唆されているように、たくさんの熱狂的なファンを獲得している悪魔系バンドもまた人に夢を与えているわけで、自己イメージの問題はあるものの根岸の場合、解決の道は見出しやすそうな気はしますが・・・
 根岸の恋のライバルになるおしゃれ四天王の1人アサトヒデタカも、ちょっと・・・。代官山のおしゃれなカフェをプロデュースしてる人が、雑誌記者の相川由利(加藤ローザ)を口説くのにデートの行き先がとしまえん(でしたよね?)って・・・。意外にこの人にもアイデンティティ・クライシスがあるかも。僕がやりたいのはこんな気取ったプロデュースじゃない、とか。
 その点、表裏のギャップが出て来ないのが、デス・レコーズ社長(松雪泰子)。これだけの壊れっぷりで裏がないってすごい。タバコは自分の舌や人の額で消す、根岸を殴る、蹴る、部屋はめちゃめちゃに破壊してスプレーで落書きすると、やりたい放題。最初の事務所でのシーンではわざとらしく聞こえた高笑いも、後半になるに従い、コンサートのバックではピタリとはまってきます。(あぁ来週「容疑者Xの献身」を見てこの松雪泰子の高笑いがダブらないでしょうか・・・)
 これに対して、根岸の憧れの相川由利(加藤ローザ)も裏がないんですが、こちらは天然ボケというか・・・。音楽雑誌の記者やってるんだから、少しは状況判断できるだろうに、コンサートの真っ最中に舞台に駆け上ってリードヴォーカルに「根岸君でしょ」なんて聞く?(こっちは「天国はまだ遠く」の千鶴もそういうタイプだからいいけど)

 クラウザーを「クラちゃん」と呼ぶ母親やバンド仲間やファンのメッセージに背中を押されて、デトロイト・メタル・シティも人に夢を与えている、デトロイト・メタル・シティにしか与えられない夢があると気づいた根岸/クラウザーがコンサート会場に駆けつけて悪魔バンド勝負に勝った後、突然クラウザーの姿で「甘い恋人」を歌い出してファンの頭を抱えさせ、ここでイメージを崩壊させて終わるかと思ったら、また社長の一撃で悪魔バンドに戻りと、ラストでも揺れを見せています。方向はもう見えたはずなのに、でも悟りきれず、しかし捨てられない。この葛藤が今後も続くことを示唆しています。まぁ、自己イメージを、頭ではわかっても、そう簡単には変えられないということでしょうね。
 ラストシーンにも、エンドロールの後のクラウザー信者の叫びにも、そのあたりが現れているように感じます。

 根岸/クラウザーの両面が描かれ、時間的には根岸サイドの悩みの方が長い感じですが、映像としてはクラウザーサイドのバンド演奏(ただ、会場のファンが今ひとつ陶酔してない感じでテンション下がりますが)と、デス・レコーズ社長の壊れっぷりの方が遥かに魅力的です。

 ところで、最初の頃はクラウザーと根岸の間に化粧を落としたりのシーンを強調していましたが、遊園地のトイレでは根岸が手ぶらで入ってクラウザーが出てくるの、これ「変身」でしょうか。別にいいですけど。 

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