庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「人生はマラソンだ!」
ここがポイント
 経営難と末期癌と不出来の息子を抱えたギーアの我慢と根性がメインテーマ
 ややコミカルなタッチの展開が心地よいハートウォーミングな作品

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 自動車修理工場の存亡を賭けて工場主と労働者がフルマラソンに挑む映画「人生はマラソンだ!」を見てきました。
 封切り5週目月曜日祝日、全国14館東京では唯一の上映館シネスイッチ銀座スクリーン2(182席)午前10時40分の上映は4割くらいの入り。

 ロッテルダムにある自動車修理工場を経営するギーア(ステファン・デ・ワレ)は、昼間からビールを飲み、従業員のレオ(マルティン・ファン・ワールデンベルグ)、キース(フランク・ラマース)、ニコ(マルセル・ヘンセマ)らと賭けトランプに興じる日々を過ごしていた。ギーアは4万ユーロ近い税金の滞納を隠していたが、それが従業員に発覚し、工場の差押えを避けるための金策を考えるうち、エジプトからの移民労働者ユース(ミムン・オアイーサ)が足を悪くする前はマラソンを走り広告料を稼いでいたと知り、ロッテルダムマラソンで広告料を稼ごうと思い立つ。スポンサー集めがうまく行かない中、喀血したギーアは医者の診断を受け食道癌が肺に転移し既に手術不能と宣告される。ギーアらはユースのおじの中古自動車ディーラーに全員が完走したら税金を肩代わり、完走できなかったら工場を譲ると申し入れ、賭が成立する。マラソン経験者のユースの指導でギーアらは練習を始めるが…というお話。

 工場は多額の負債を抱えて経営難、末期癌の宣告を受け、認知症の母親と勉強嫌いで親の金をくすねる不出来の息子を抱えるギーアの我慢と根性の物語がメインテーマです。会社の経営者であり一家の大黒柱として責任がのしかかる中、まわりを不安にさせないために苦しい心のうちを誰にも語れない辛さが身に染みます。私は、常々言うように、「俺は男だ」的なマッチョな考えはきらいなんですが、でも同じ立場に立つときっと同じように抱え込んでしまうタイプなので、ギーアの気持ちにすっと入ってしまい、泣けてきました。もっとも、まわりに言わずに抱え込むことで事態を悪化させてしまう可能性が高いのですが。
 資金繰りに苦しみ、末期癌も宣告されてお先真っ暗な中、金をくすねマラソンに挑むなんてばかげているとぼやく息子に対し、怒鳴らず詰らず、お前は俺を誇りに思えないかも知れないが、俺はお前を誇りに思っているというギーアは、親としてすごいと思う。末期癌の宣告を受けて、自分には先がない、意地を張っても仕方がない、関係を悪化させることにメリットはないという判断かも知れませんが。
 ギーアにとっての救いは、妻との関係が良好で妻がギーアを支える気持ちがあること。妻から最近大好きなケーキも食べないしビールも飲まない、何があったのかと詰め寄られて、ギーアが話すのは工場の経営難のこと。やっぱりそっちか、ちょっと考えさせられます。

 ギーアの運命の重苦しさを和らげ、作品をコミカルなタッチにするのが、マラソンに挑む中年労働者たちの設定です。
 レオは売春宿で知り合った女性と同棲中。同棲する段になって子連れとわかり、戸惑いますが、赤ん坊をあやすうちに馴染んでいき、足を洗ったはずの女性がその後も隠れて売春を続けていたことを知り追い出すとき血のつながらない子を引き取ります。
 キースは、食事の際には神への祈りを欠かさず日曜日には労働をしてはならず礼拝に行かねばならないというキリスト教原理主義者の妻の下、模型電車と煙草を手放せない生活を送っています。
 ニコは、同居していた女性から去られたばかりですが、ランニングシューズ店でフィッティングをしてくれたイケメン店員に恋心を持ってしまいます。
 その3人とギーアが、最初は数分走っただけで吐いて倒れてしまうありさまだったのが、ユースに叱咤激励されてトレーニングに励むうちに、走る姿も少しサマになってきたと思うと、試走に挑んだアムステルダムマラソンには遅刻してしまうなど、行きつ戻りつの展開で、最後までどうなるかと思わせてくれます。

 ギーアの立場を思うと胃が痛む面もありますが、ややコミカルなタッチの展開が心地よいハートウォーミングな作品です。
(2014.7.21記)

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