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たぶん週1エッセイ◆
映画「エル ELLE」
ここがポイント
 レイプを、ではなく、ミシェルという特定の人物像を描いた作品、または「変態ムービー」としてみるべき
 イザベル・ユペールの身構えて挑戦的な表情と何かに動じるものかという頑なな表情が印象的
 自宅で覆面男にレイプされたゲーム会社社長が自ら犯人を捜すサスペンス映画「エル ELLE」を見てきました。
 封切り3日目日曜日、全国13館、東京4館の上映館の1つTOHOシネマズシャンテスクリーン1(224席)午前10時15分の上映は満席。

 ゲーム会社のワンマン社長ミシェル・ルブラン(イザベル・ユペール)は、一人暮らしをしていたが、ある日自宅で覆面男にレイプされる。39年前に父親が27人を殺し、当時10歳だった自分が父に言われて家で服を燃やしているところを警察に踏み込まれ下着姿のまま報道されたことを恨みに思っているミシェルは、元夫のリシャール(シャルル・ベルリング)、親友でビジネスパートナーのアンナ(アンヌ・コンシニ)、アンナの夫で実は愛人のロベール(クリスチャン・ベルケル)らに警察に届けるよう勧められても、警察には行きたくないと言い、護身用のスプレイとハンマーで身を固める。しかし、携帯に非通知コールや嫌がらせメールが届き、家に侵入した痕跡を見つけ、会社では怪物がミシェルをレイプするゲーム動画がばらまかれ、ミシェルはレイプ犯が身内だと確信する。他方で、ミシェルは、ミシェルの心身の傷に無頓着に頻繁にセックスを求めるロベールに閉口しつつも要求に応じ、元夫のリシャールが交際する大学院生に嫉妬し、隣人のレベッカ(ヴィルジニー・エフィラ)の夫パトリック(ロラン・ラフィット)を双眼鏡で見つめながら一人Hする。夜自宅の前に停車する怪しげな車に護身用スプレイとハンマーを持って近寄ったミシェルは・・・というお話。

 覆面のレイプ犯を追うサスペンスという形をとりながら、ミシェルという特定の/特別の「彼女(ELLE)」の人物像を、そしてまたレイプ犯の「彼」の人物像を描いた作品です。
 たぶん、レイプ被害者にとっては、耐えがたい人物造形だと思いますが、この作品も、通常のレイプ被害者あるいはあるべきレイプ被害者を描くつもりはさらさらなく、またそうは読み取れないと思えるのが救いでしょう。
 公式サイトの紹介で「世界初の気品あふれる変態ムービーにして異色のサスペンス」としているのが、(世界初かどうか、気品あふれるかどうかはさておき)この作品の性質を表しているというべきでしょう。

 イザベル・ユペールの身構えて挑戦的な表情と何かに動じるものかという頑なな表情が印象的です。
 レビューで、レイプされた後のミシェルについて、何事もなかったかのように平然と割れた食器を片付けるとか書いているものが多いのですが、私には、ミシェルの頑なな表情の中に、弱さを見せるまいとする構えの中に傷ついた心が感じられました。
 63歳のイザベル・ユペールが、役柄では49歳(39年前の父親の犯罪時に10歳)で、ヌードも見せ、それでさほど無理に見えないというのもすごいかなと(やっぱり私などには女の歳はわからん)・・・
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(2017.8.27記)

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