庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「いとしきエブリデイ」
 夫の受刑中4人の子どもを育てる妻と子どもたちの様子を描いた映画「いとしきエブリデイ」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、全国で5館、東京で唯一の上映館のヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(162席)正午の上映は3割くらいの入り。

 夫イアン(ジョン・シム)が受刑中で、4人の子どもステファニー(ステファニー・カーク)、ロバート(ロバート・カーク)、ショーン(ショーン・カーク)、カトリーナ(カトリーナ・カーク)を抱えた妻カレン(シャーリー・ヘンダーソン)は昼はスーパーで働き、夜はパブに勤め、子どもたちを母や知人に預けたり手を引いてイアンとの面会に通っていた。父親不在の中で子どもたちは成長し、イアンの外出許可の出た日は一緒に公園でサッカーをし子どもたちの目を盗んでイアンとカレンはひとときの情事を楽しむが、イアンは麻薬を持ち込んで刑期を延長されてしまう。子どもたちはイアンと電話で話したり面会で話すのを楽しみにしているが、いつしかカレンはパブの客を部屋に上がらせ…というお話。

 本物の幼い4人兄弟の日常を5年かけて撮影し続けたというこの作品の見どころは、幼い子どもたちの愛らしさとその成長ぶり。子どもが出てくる映画では少女の方に目が行きがちな私にも、この映画ではショーン君のかわいさが印象に残りました。その天使のようなあどけなさ愛らしさを、親はどの程度見る/楽しむことができるのか、子どもが一番子どもらしい、親にとって至福の時期に、この作品のように受刑中だったらほとんど会えないわけで、それを通じて、親はなくても子は育ち、親の喜びはよほど自覚的に子どもと接しないと充分には味わえないというメッセージを感じます。そして、そのことは、受刑中の場合だけでなく、仕事優先の生活をしていても同じです。

 度重なる面会のシーン。集団の面会室で、仕切りなしに面会し、ハグしたりキスしたりできるし、ふんだんにしています。受刑中も妻・夫、恋人、そして子どもとの人間関係をかろうじてでも維持していくことは、受刑者の再起のためにもとても大事なことだと思います。この映画でも、面会で子どもたちと話し抱きしめ、妻とキスし抱擁して監房に帰ったイアンが悲しみに暮れる様子が繰り返し描かれています。何度も面会に来てくれる妻と子どもたち、その妻子をごく短時間しか抱きしめられず生活を支えてやれない自分とその境遇に後悔の念を募らせているのです。そういった人間的な感情と自主的な後悔・反省が、厳しく何でもかんでも制限し人間味を失わせるやり方よりよほど受刑者の更生につながると、私は思うのですが。
 日本では、面会は全てアクリル板越しで、触れ合うことはできませんし、アクリル板越しの面会ですら子どもは会わせてくれません。家族関係、人間関係の維持を考えれば、子どもとの面会も認めるべきでしょうし、アクリル板越しでなくふつうの部屋で触れあえるようにすべきだと思います。受刑者に対しては何でもがまんさせればいい、厳しく制限すればいいと言いたがる人たちが多いですが、周囲との人間関係を断ち切り孤立させ、出所後の就職も困難にしてしまえば、守るべき家族や人間関係もなく「失うものは何もない」という状態になりがちで、それで収入もなければ再度犯罪を犯すという誘惑に抵抗できなくなるでしょう。厳罰主義者の方々はそれも自己責任というのでしょうけれど、受刑者が立ち直れず何度も犯罪を犯したり刑務所に入り続けることは、犯罪被害者が増えるということからも刑務所のコストがかかるということからも望ましいことではないと思います。

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