◆たぶん週1エッセイ◆
映画「フライト」
機体故障が相次ぐ中で奇跡的な不時着を成功させ多くの人命を救った機長が体内からアルコールとコカインが検出されて追い詰められるクライムサスペンス映画「フライト」を見てきました。
封切り3日目日曜日、新宿ピカデリースクリーン2(301席)午前9時10分(!)の上映は5割くらいの入り。観客層は中高年がわりと多い感じでした。
アル中でヤク中の機長ウィトカー(デンゼル・ワシントン)は、愛人の客室乗務員トリーナ(ナディーン・ヴェラスケス)と遅くまで深酒をしコカインで目覚ましをしてアトランタ行きの定期便に乗務した。その日は天候が悪く、離陸直後に乱気流に巻き込まれ手動操作で巧みに乱気流を乗り切ったウィトカーは、こっそりウォッカの小瓶3本を飲み操縦を副操縦士(ブライアン・ジェラティ)に任せて眠ってしまう。機体の激しい揺れで目を覚ましたウィトカーは、機体の故障を察知し、次々と指令を出し副操縦士が対応できないのを見るとベテランの客室乗務員マーガレット(タマラ・チュニー)を運転席に呼び込んで手伝わせながら、背面飛行で落下を防ぎ草原を見つけて胴体着陸した。102人の乗員乗客のうち、背面飛行時に客席から落下した子どもを助けに行き機体が元に戻るときに頭を打ったトリーナら2人の乗員と4人の乗客が死亡したが、96人は生還した。マスコミはウィトカーをヒーローに祭り上げたが、トリーナの死を聞いて沈み込んでいたウィトカーは表に出ず、病院に薬物の急性中毒で運び込まれていたニコル(ケリー・ライリー)と意気投合する。機長を支援する乗員組合のチャーリー(ブルース・グリーンウッド)に呼び出され、ウィトカーの血液からアルコールとコカインが検出されたことを知らされ動揺するウィトカーに、乗員組合が雇った弁護士(ドン・チードル)は血液検査の報告書を潰すと宣言するが・・・というお話。
飲酒が事故原因と直接は関係なく、事故調査委員会が10人のパイロットにフライトシミュレーターで事故を再現して操縦させたら10人とも墜落全員死亡となりウィトカーの手腕故に多くの人命が救われたこと自体は明らかとなったものの、ウィトカーがアル中で当日も飲酒しコカインを服用して乗務していた事実が明らかになれば少なくとも機長としてのキャリアを失い遺族から訴訟提起され、飲酒と死亡の因果関係が認められれば最悪の場合終身刑もありうるという状況の下、ウィトカーが事故調査委員会の調査にどう対応するかが焦点となります。
いつも通りだったと言ってくれと迫るウィトカーに11年のつきあい故に悩みつつそんなはずがないと断るマーガレットの複雑な思い、飲酒の上突然訪ねてきたウィトカーを拒絶する元妻(ガーセル・ボヴェイ)と息子、両足に障害を負いキャリアを失った副操縦士の非難と、おとなしく過ごし飲酒については記憶がないというよう指示するチャーリーと弁護士。それらの中で動揺し続けるウィトカーの姿が見どころとなっています。
一度嘘をつくと次々と嘘をつき続けなければならなくなるとアル中患者のミーティングで告白する患者の話とそれを聞いて苦しそうに席を立つウィトカーの姿が1つのシンボルとなっています。
嘘というのはそういう性質のもので、私自身、戦術としてであれ嘘をつくことは得策でないと常々考えています。世の中、そうではない人もたくさんいるようで、嘆かわしく思うことが多々ありますが。組織を守るために嘘をつくしかない/嘘をついてもいいと考えている人々にこそ、見て欲しい映画かなと思います。
弁護士の目からは、乗員組合が雇った弁護士とウィトカーの信頼関係が十分にできず、弁護士が組合の方針で動き、常識的には組合の方針と利害が一致するはずと判断して、ウィトカーのアル中の度合いと心の動揺を図りかねたところに弁護方針の破綻を見てしまいます。弁護士側からは、本人が事実と心情について十分に話してくれず、助言に従わなければ、弁護士がどれだけ頑張ってもどうしようもないとはいえますが。
また、事故調査委員会のエレン・ブロック(メリッサ・レオ)が放った最後の質問は、質問者としては計算し尽くした落としに行く質問ではなかったはずですが、これが心の堰を突き破る一矢となるあたり、人情の機微というか心の綾が描かれていて興味深いところです。こういうことがありうるから(滅多にありませんけど)尋問というのは奥が深い、人間というのは簡単ではないと思うのです。
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