庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「フルートベール駅で」
ここがポイント
 善人とは言えなくても家族に愛情を注ぎ前向きに生きようとしていた青年の突然の死の無念がテーマ
 幼くして父親を奪われた娘の悲しみ、幼い娘を残して命を奪われた父親の無念に涙ぐみます

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 2009年1月1日警察官に撃たれて死んだ黒人青年の最後の1日を描いた映画「フルートベール駅で」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、全国10館東京2館の上映館の1つヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(162席)午前10時20分の上映は2割くらいの入り。アメリカでは公開時7館での上映から最終的に上映館は1063館になったというサンダンス映画祭作品賞(審査員グランプリ)・観客賞W受賞作ですが、日本での興行成績は望み薄に思えます。多くの人に見てもらいたい作品なのですが。

 2008年12月31日未明、前科者で2週間前に遅刻で勤務先のスーパーを解雇されたが解雇を恋人に隠したままの22歳の青年オスカー・グラント(マイケル・B・ジョーダン)は、恋人のソフィーナ(メロニー・ディアス)から浮気を責められ仲直りしようとしたところに幼い娘タチアナが眠れないと夫婦の寝室を訪れて3人で寝た。朝仁なりオスカーはタチアナを保育園に送り、誕生日を迎えたオスカーの母ワンダに電話で祝いの言葉を述べた。ソフィーナに更生を誓ったオスカーは、スーパーに再度雇ってくれるように頼みに行くが断られ、昔の仲間にまたマリファナを売ろうと声をかけるが逡巡し思いとどまる。ワンダの誕生祝いに親戚一同が集まったのち、オスカーとソフィーナは新年のカウントダウンを街中で迎えるべく、タチアナをソフィーナの姉に預ける。タチアナは銃声がすると脅えるが、オスカーはあれは爆竹の音だよとなだめ、ソフィーナとともに地下鉄で移動した。地下鉄の中で喧嘩を売られたオスカーは、相手に殴り返し仲間たちも巻き込んだ乱闘になった。警察が出動し、オスカーたちは別れて行動するが、オスカーは警察官にホームに引きずり出された。座らせられ、何もやっていないというオスカーに対し、警察官はオスカーをうつ伏せにして顔を踏みつけ手錠をかけたのち、後ろから銃で撃ち、車内で目撃し携帯で撮影していた乗客は騒然となるが…というお話。

 マリファナの売人でけんかっ早い刑務所帰りの青年が、それでもなんとかまじめにやっていきたいと、仕事をしようとし、売人もやめるつもりでマリファナを廃棄し、という時点で、22歳にして人生を打ち切られてしまう。幼い娘に愛情を注ぎ、恋人とも折り合いを付け、母親思いでもある青年が、突然命を奪われる。その家族の悲しみ、本人の無念がテーマとなります。
 幼い娘の無邪気さ、愛らしさ、オスカーが街に出る際の不安な様子、そしてラストのまなざし。エンドロールで娘タチアナ・グラント本人の映像も出ますが、幼くして父親を奪われた娘の気持ち、また幼い娘を残して死ぬことになるオスカーの悲しみを思うに付け、涙なしには見られません。

 地下鉄の車内からホームに引きずり出してすぐの暴行なので、警官の横暴を多くの乗客が目撃していた上、携帯で撮影していたために、警察も事件をもみ消すことができなかったわけですが、そうしたビデオ等がなかったら、オスカーの死も闇に葬られていたかもしれません。そういう意味では、携帯やコンパクトビデオカメラが普及した現在は、こういった権力犯罪が露見しやすい時代といえます。そんな中で無抵抗のというか手錠をかけ押さえ込んでいる相手を銃で撃つってどれだけ異常な奴かとも思いますが。

 息子を警察官に撃たれたワンダが、それでも自分が車ではなく地下鉄で行けと言ったのが悪かったと後悔し泣く姿は痛ましい。明らかに悪いのは警察官なのに、被害者の母親が自責の念を引きずるのは、母親というのはそういうものというところもありますが、あまりに哀しい。
(2014.3.30記)

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