たぶん週1エッセイ◆
映画「ハンコック」

 犯罪者をやっつけるけどやり過ぎてまわりに甚大な損害を与える困ったヒーローが活躍するアクションコメディ「ハンコック」を見てきました。
 封切り2日目ですし、朝1番の上映でもけっこう人が入っていました。

 空を飛べ、銃で撃たれても機関車と衝突してもまったくダメージを受けない不死身の超人ハンコック(ウィル・スミス)は、ふだん飲んだくれているけど、犯罪が起こったニュースを聞くと飛んできて犯罪者をやっつけ刑務所に送ります。しかし、行儀が悪く周囲のことを全然気にしないので、道路やビルを壊し、まわりの無関係な市民にとばっちりが行き、周囲からはブーイングを受けます。
 うーん・・・これ、子どもの頃、ウルトラマンとかのヒーローもの見ていて、疑問に思ってたんですよね。ウルトラマンが怪獣と戦うときに必ずまわりのビルとかいくつも壊れるけど、その中にも人がいるだろうし、ウルトラマンが出てきたおかげで被害を受ける人もいるはずだけどって。昔は、大きな善(全体の利益)のための小さな悪(個別の損害)は問題にされなかったけど、時代は変わったというところでしょうか。ハンコックの場合は、スーパーヒーローもののパロディの意味も込めて、明らかに損害の方が大きい設定なんですが、そうでない場合もいまどきの感覚では問題になるかもしれません。
 踏切で車が動けなくなって機関車に衝突される寸前にハンコックに命を助けられた広告プランナーのレイ(ジェイソン・ベイトマン)は、ハンコックが市民に愛されるよう、謝罪の記者会見や(器物損壊等々の犯罪のために)一旦刑務所に入りハンコックがいなくなることで犯罪者が跋扈して警察と市民にハンコックの必要性を思い知らせる、道路や建物を壊さない、警察官にはねぎらいの言葉をかける、ヒーローらしい制服(バトルスーツ)を着るなど、様々なプロモーションを企画して、これが功を奏します。もともとハンコック自身、犯罪者と闘っているのだし、気持ちは正義の味方だったわけで、それがやり方が悪い、お行儀が悪いために感謝されずに文句ばかり言われてすねていたのが、素行と態度を直せば市民から感謝されるのはまぁ当然ですが、なかなか微妙な問題ではあります。ハンコックからすればやっていることの内容に大差ないのにまわりを壊さないように少し気をつけて態度をよくするかどうかで回りの評価が全然違うというのは憮然とするかもしれません。でも人間社会ってそういうもんですし、それが、大人になるってことなんです。特にいまどきの風潮では。と同時に、PRの仕方次第で市民の評価がまったく変わるというあたり、いろいろな意味で怖さを感じますが。

 さて、予告編ではこのあたりの話なんですが、後半、全然展開が変わります。後半はハンコックの正体と、家族愛がテーマになります。後半はまたいろいろ騒ぎがあってここで前半で取り戻した市民の信頼がどうなったかは描かれず、ちょっと前半と後半が別立てになっている感じがします。
 前半から、レイがハンコックを命の恩人としてもてなすのとともにプロモーションの必要性からもハンコックとの信頼関係を築きハンコックの人間らしい気持ちを引きだすためにもレイの家族との交流を図ります。息子のアーロン(ジェイ・ヘッド)はハンコックになつきますが、妻(アーロンには継母)のメアリー(シャーリーズ・セロン)は最初からハンコックに冷ややかな態度をとり続けます。このあたり伏線になってはいるのですが、ハンコックより強いメアリーって、ちょっとビックリします。
 ハンコックは、80年前に記憶を失い、歳もとらずにいるがなぜ不死身なのか歳をとらないのかもわからないと言います。ハンコックと同種の人類は昔はもっといたが残っているのは2人だけということが後で明かされますが、結局、ハンコックがなぜ不死身なのかはわかりません。それに結末を考えると、残った2人以外がどうして死んだのかも疑問が残ります。
 レイとその家族の家族愛、ハンコックの気持ちとレイとの友情は、突っ込み不足の感はありますが、しみじみさせます。

 侮辱されると我慢がならないハンコックですが、その象徴的なシーンとして、”asshole”と罵られて、相手にそれ以上言ったらお前のケツの穴にこいつの頭をぶち込んでやると言ったり、現にそうしたりするシーンが登場します。この部分、天下の戸田奈津子字幕にケチをつけるわけではありませんが、”asshole”を「くず」と訳されても巧くつながりません。もうひと工夫できなかったでしょうか。

 エンドロールの途中に、ちょっぴりその後のハンコックが登場し、気を持たせる形でまたエンドロールが始まりますので、エンドロール終了後にさらに続きがあるかと思ったらありませんでした。どうせならスカッとさせて終わって欲しかったと思います。

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