◆たぶん週1エッセイ◆
映画「ソウォン/願い」
深刻な被害に遭いながら健気なソウォンの姿に、涙なしには見られない
どうして心神耗弱?どうして損害賠償請求棄却?懲役何年よりもそっちが理解できなかった
幼女強姦事件の被害家族の苦しみと再生を描いた映画「ソウォン/願い」を見てきました。
封切り4週目日曜日、全国3館東京では現在唯一の上映館新宿武蔵野館3(84席)午前10時の上映は5〜6割の入り。
町工場で働く父ドンフン(ソル・ギョング)と文具店を経営する母ミヒ(オム・ジウォン)の娘の8才の少女ソウォン(イ・レ)は、土砂降りの雨の中遅刻して学校に向かう途中、酒に酔った性犯罪歴のある男に立ちはだかられ「傘に入れてくれ」と言われ、そのまま近くの廃屋で激しく殴打され気絶したところを強姦されて、瀕死の状態で警察に通報し、救助された。警察から呼ばれて病院に駆けつけたドンフンは、医師から、肛門と大腸と小腸の一部を切除しないと助からないと言われ、同意するしかなかった。警察の依頼でソウォンへの質問を担当した心理療法士(キム・ヘスク)に犯人の顔写真を名指ししたソウォンの証言で犯人が逮捕されるが、逮捕を聞いて警察に駆けつけたドンフンの姿を見てマスコミが被害者を知り病院に押し寄せた。マスコミのカメラを避けてドンフンはソウォンを抱き上げて逃げるが、ようやくベッドに寝かせてみると人工肛門から便が噴き出していて慌てて拭き取ろうとソウォンのパジャマを脱がせようとするドンフンにソウォンは恐怖感を持ち泣き出した。ドンフンは心理療法士にソウォンのカウンセリングを依頼するとともに、父を避ける娘の心を何とか癒そうと娘の好きなアニメキャラココモンの着ぐるみを手に入れ、ココモンの着ぐるみを着て娘の前に現れて娘と筆談やジェスチャーで会話するが…というお話。
忙しい母親とテレビや電話にかまけておざなりな対応をする父親に、きちんとかまってもらえない不満を持ちつつも、健気で素直に育ったソウォンの姿、深刻な被害に遭い深く傷つきながらも、大人からの問いかけに真摯に対応しようとするソウォンのやはり健気な姿、心理療法士の問いかけに学校に行きたい自分の思いとでも恥ずかしくて行けないという不安に揺れながら語る姿、さらには母と父を思いやる姿。理不尽な被害と、このソウォンの健気さに、ただひたすら涙しました。
内にこもる場面はあっても、癇癪も起こさず愚痴も言わないソウォンは、被害者として健気すぎるようにも思えますが…
うちに帰ると寝転んでテレビで野球を見てソウォンにちゃんとかまってやらない父だったドンフンが、事件を機に犯人を憎み、心を閉ざす娘のために何とかしたいと奮闘する姿は、ごく普通の被害者家族の苦しみを描いていると見るべきか、父親の自覚を強めて成長する姿を描いていると見るべきか。
ドンフンが勤める町工場の経営者(キム・サンホ)、2週間欠勤を続けるドンフンにかまわないと言い、さらに金に困っているだろうと金を貸し、裁判でもドンフンよりも興奮して被告人や裁判官に怒鳴りつける熱血ぶり。人情に厚いというか、こういう従業員思いの家族的な経営者、韓国にはまだいるんですね。
酒に酔っていたから心神耗弱って主張、そう簡単に認められるとは思えないんですが。被告人自身が、酒に酔うと記憶が飛ぶなんて言ってるわけで、そう認識してるなら酒飲むなって判断になりそうに思いますし。それに訳がわからないくらい酒に酔ってたら、男の場合、できるんだろうかという疑問も…
韓国では、被告人と被害者の父を刑務官の立会なしで面会させるんでしょうか。日本だと弁護士以外の面会は確実に刑務官が立ち会いますけど。
ドンフンらは12年の刑を軽すぎると激高するのですが、人が死んでいない事件で12年というのはかなり重罰だと思います。被害者にとっては、どんな判決が出ても被害が回復されるわけではありませんから、不満は残ります。それはそれとして受け止めるべきですが、裁判制度上被害者の事情だけで判決をするというわけに行かないわけで、メディアの描き方にはもう少し節度があるべきだと思います。軽すぎると激高し嘆く被害者・遺族の様子ばかり強調するメディアのために、被害者・遺族がどんな判決を見ても軽すぎると嘆くのがスタンダードになってきているように思えます。そういう風潮が、ドンフンが、軽い刑なら俺が始末を付けるなどと言い出すことへとつながっているのではないかと私には思えます(重罰を煽るメディアは、刑が軽すぎるから被害者の復讐心を国家が代行しきれず抑えられないのだというでしょうけど)。
私には、裁判官が述べた判決主文の中で、懲役12年の方よりも、最後に損害賠償請求を棄却していることの方が気になりました。韓国の法制度は知りませんが、刑事裁判に付随して損害賠償請求も審理するということで、有罪で被害もかなり重いのにどうして請求棄却なのか、理解できません。実刑で刑務所に行く被告人からは現実に賠償金を取ることはできないでしょうけど、損害賠償の判決で被告人の行為の違法性や被害者の被害がはっきりと認定されるはずで、その判断を得ることで被害者の気持ちが整理できる部分もあると思います。それが請求棄却になるとしたら、そっちの方が被害者には我慢ならないのではないかと思うのですが。
(2014.8.31記)
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