◆たぶん週1エッセイ◆
映画「ハンティング・パーティ」
ボスニア内戦での住民虐殺の指導者の戦犯「フォックス」を3人のジャーナリストが追いつめる映画「ハンティング・パーティ」を見てきました。
日曜夜というわざわざ映画見に行かないよねって日程ではありますが、封切り後10日足らずにもかかわらずかなり空いててちょっと拍子抜け。
戦場からの迫真のレポートで名を売った花形レポーターのサイモン(リチャード・ギア)とカメラマンのダック(テレンス・ハワード)のコンビ。ボスニア内戦で恋人をレイプされた上虐殺されたサイモンは、生中継でスタジオから虐殺されたイスラム教徒側にも非があると指摘するキャスターにキレて虐殺現場の酷さを指摘し国連を批判し最後には放送禁止用語を叫んでテレビ局を首になり、戦場でのレポーターを続けるもののスポンサーが減り落ちぶれていきます。他方、ダックは戦場からの迫真の映像などが評価されてニューヨークに呼び戻されてアメリカでの重大ニュースの映像を任され出世していきます。ダックが内戦終結5年のボスニアでの記念式典の取材にボスニアに派遣されたのを機に、サイモンが戦犯でありながら捕らえられず各国政府と裏取引をしながら隠然たる勢力を持ち続けるフォックスへのインタビューを取ると持ちかけ、これにダックと随行のコネ入社のプロデューサーのベンジャミン(ジェシー・アイゼンバーグ)が乗り、3人でフォックスを追うというのがメインストーリーです。
落ちぶれて金がない、多額の借金を背負ったサイモンのいい加減さ、身勝手さ、調子のよさをリチャード・ギアが好演しています。ジャーナリストとして逃亡中の戦犯のインタビューを取るという建前なんですが、サイモンの言動は金にせこいしいい加減でかっこよくないし、借金を返すために懸賞金500万ドルのかかったフォックスを生け捕りにすると言い出したり、捕まったらなりふり構わず命乞いするし、最後の方まで正義っぽくないところが、むしろ渋くてよかったと思います。
そして、すでに十分金も地位も得て、本来休暇で彼女がギリシャで待っているダックが、サイモンに半ば騙され、危険を冒し、しょうがないなあと思いつつつきあい、しかしそれでいいと思っている様子がまたいい。私には、ダックの、そういう台詞はなかったと思いますが、「それも人生」(C'est la vie)とでも言いたくなるような表情でサイモンについて行く、そして最後にはサイモンを激励して前進する、損な性格による麗しき友情から自分の生き甲斐への流れが、映画としての味わいと清涼感を出しているように感じられました。
さらに、コネ入社の頼りなげなベンが、意外にも根性を見せたりするのも好感が持てました。当初は、この人、殺され役かなと思っていたんですが。
3人がフォックスを発見するまでは、山あり谷ありのアクションものですが、3人がジャーナリストで自らは武器を持っていないため、銃撃戦とかにはならなくてアクション場面は少し迫力不足です。でも、場面展開はわりと速く(ちょっと展開に付いて行けない部分もありましたが)、十分楽しめると思います。
ただ、3人がフォックスを捕らえる場面は、それまでの苦労というか危険を考えると、ちょっとあっけなさ過ぎ。ここは、やっぱりクライマックスのはずですから、もっと緊迫感が欲しかったと思います。見終わってここが残念。
フォックスを捕らえた後のエンディングは、あんまりネタバレですから書きませんが、これはかっこいい。サイモンの落ちぶれぶり、そして恋人を虐殺された私怨からの予想を裏切ってくれますし、その落差から見ても、胸がすく爽快さとは行きませんが、しみじみとかっこいい。
ボスニアの戦犯を真剣に捕らえようとせず事実上泳がせている各国政府を風刺した社会派映画ですが、そういう政府に嫌われるリスクを冒して作った映画ですし、エンタメとしてのできも悪くないだけに、もっと人が入って欲しいなと感じました。
追伸:フォックスことラドバン・カラジッチが2008年7月21日午後、セルビア政府の治安部隊に拘束されたというニュースが報じられました。大物戦犯の引き渡しをEU加盟の条件とされたセルビア新政権がEUとの外交の一環として拘束したという見方が示されています。この映画も貢献して国際世論が高まってその結果の拘束なんて話ならすごいですが、これまでは泳がせていたのと同様の国際政治力学が、ちょっと向きを変えただけという感じもして、ちょっと複雑な気持ちです。
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