◆たぶん週1エッセイ◆
映画「ジェーン・エア」
不幸に襲われながら自立心と誇りを持って生きる19世紀半ばの女性の生き様を描いた映画「ジェーン・エア」を見てきました。
封切り2週目土曜日、全国10館、東京では2館の上映館の1つ新宿武蔵野館スクリーン2(84席)午前9時30分の上映は7〜8割の入り。観客層の多数派は中高年女性2人連れ、次いで中高年男性1人客。
幼い頃に両親を亡くし、伯父に引き取られたが伯父の死後その自己主張の強さを伯母に嫌われて寄宿学校に入れられ、寄宿学校でも従順な態度を取れないところから虐待・疎外され続けたジェーン・エア(ミア・ワシコウスカ)は、旧家のソーンフィールド館の家庭教師となる。日頃当主不在のソーンフィールド館は家政婦のフェアファックス夫人(ジュディ・デンチ)が取り仕切っていたが、ある日郵便を出しに行ったジェーンに馬が驚いて帰宅途中の当主ロチェスター(マイケル・ファスベンダー)は落馬して負傷してしまう。館に着いたロチェスターはジェーンを詰問するが、ジェーンは物怖じせず応酬する。ロチェスターは、ジェーンの教養と自立心に関心を示し、次第に態度を軟化させ、対等の態度を取るようになっていき、ジェーンはロチェスターに心惹かれていく。ロチェスターと交際していた貴族の子女イングラムを捨てて、ジェーンに求愛するロチェスターに、ジェーンは結婚を承諾する。しかし、結婚式に駆け込んできた男から、ロチェスターが財産目当てにその男の妹と15年前に結婚し、今も妻を屋敷内に幽閉していることを知らされたジェーンはロチェスターの元から逃走し・・・というお話。
幼い頃から自分の主張を曲げず、寄宿学校でも緊張からミスをして鞭打たれる少女を救うために自ら持っていたものを落として大きな音を立て自らが罰を受ける、優しさと信念を持ちそして意固地さと不器用さが目に付くジェーンは、現代においてもなかなか生きにくいタイプです。それが1840年代のイギリスでの話ですから、ジェーンのつらさは想像に難くありません。そしてジェーンのような資質というか性格を持ちつつジェーンのように生きられずにつぶされていった無数の少女たちの志も。
そのジェーンが現在また評価されるのは、ジェーンのような女性が今もなお生きにくい世情だからでしょうか。
恋愛映画として見たとき、自立心を持ち鼻っ柱の強いジェーンが、陰鬱で我の強いロチェスターに惹かれていくのは、強い女性もより強い男性に惹かれるというあくまでも男性がより強い(強くあるべき)という信仰のなせる技でしょうか。その意味ではおれ様志向の性格の悪いイケメンがモテる韓流ドラマと同じ傾向なのかも。後半というか、この映画の構成では最初と終盤に登場するジェーンの危機を救った誠実なタイプの宣教師セント・ジョン・リバース(ジェイミー・ベル)の求婚をジェーンが断ってロチェスターに走るというあたり、ますますその傾向が見えます。といっても、ジェーンに断られたときのリバースの言い様はけっこう居丈高で、この人もまた実はおれ様キャラともいえます。19世紀イギリスの男って、どのみちみんな男尊女卑のおれ様タイプというべきかもしれません。
もっとも、恋愛面で見ると、幼い頃から男性とのつきあいもなく女子ばかりの寄宿学校で育ち家庭教師としても日頃は女性ばかりの館で過ごしたジェーンが、実質的には初めて近くで過ごした男性ともいえるロチェスターに、免疫がない故に思いを募らせ、ファースト・キスも交わし(それ以上については映像化されていないので判断保留)、初めての男性故にその後も固執するという面もあります。そう考えると、少なくとも恋愛面ではジェーンは古風な女性とも評価できます。
館も焼け落ち、視覚障害者となったロチェスターの元に戻るという選択は、純愛と見るべきか(それが素直でしょうね)、自分が優位に立ち囲い込めるという余裕と自己満足か。前者であれば、自立した尊厳を守る女性の生き様といいながらも愛する男性に奉仕する後半生が待っているという解釈に流れるでしょうし、後者であれば自立心をまっとうしつつでもその自立心はどこかいやらしく見えてしまいます。もちろん、一番現実にありがちな感じがする落ちぶれたロチェスターの姿を遠くからチラ見してさよならするという選択肢では気高さが感じられませんから、こうならざるを得ないでしょうけど、ちょっとすっきりしない感じが私には残ります。原作の発表された19世紀イギリスの感覚で言えば、家庭教師女性が旧家の当主と対等ないし立場逆転ということ自体で十分にショッキングだったのだと思いますが。
ジェーンの逃走に気付き、ロチェスターが館から荒野に向かい「ジェーン」と叫ぶシーン。シチュエーションも荒野の明暗も、もちろん違うのですが、荒野に向けて「ジェーン」と叫ばれてしまうと、「カムバーック!」と叫びたい衝動に駆られてしまい、シリアスな場面がちょっとコミカルに思えてしまいました。
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