◆たぶん週1エッセイ◆
映画「君が世界のはじまり」
各人の悩み・鬱屈・閉塞感の切なさを味わう作品
高校生が主体だが親世代のキャラも味わいがある
大阪の地方都市で鬱屈する高校生たちの青春群像劇「君が世界のはじまり」を見てきました。
公開3日目日曜日、テアトル新宿(218席/販売111席)正午の上映は、30〜40人の入り。
成績が学年で1番の高校2年生縁(松本穂香)は、小学校からの幼なじみで成績が一番ビリで校則を守らず数学教師桑田(板橋駿谷)に追われて逃げ回る同級生琴子(中田青渚)とつるんでときどき授業をサボり、学校の片隅の廃屋に溜まっていた。ある日2人が溜まり場にしていた廃屋の部屋でサッカー部の業平(小室ぺい)が泣いていたのを見た琴子は業平に一目惚れし、これまでの体だけの関係だった8人の男とは違うと、業平に近寄る。通学途上にあるタンクを眺めていた業平と遭遇した縁は、業平から琴子さんから話を聞かされていますと声をかけられ、子どもの頃に親から悪さをした子はあのタンクに閉じ込められると脅かされたことなどを話す。業平と京都でデートして帰ってきた琴子は、縁に、業平が縁のことばかり話していたとキレる。母親が出て行き父親(古舘寛治)と2人暮らしの純(片山友希)は、毎日食事を作り純に声がけする父を無視して出かけ、継母ミナミ(億なつき)と肉体関係を持つ鬱屈した伊尾(金子大地)と肉体関係を持ち…というお話。
両親がそろった和やかな中流家庭に育ち成績も学年1番の縁は、京大の赤本(過去問)を眺めながら、贅沢な悩みではあるもののこの先幼なじみの琴子と一緒に進めない進路に悩む。
業平に思いを寄せる琴子は、業平が自分よりも縁の方を向いていることに悩む。
業平は、生まれてすぐに母親に去られて父と2人暮らしだが、その父が心を病み時折発作を起こすことに悩む。
サッカー部のキャプテンで縁と親しい岡田(甲斐翔真)は、超人気者だが、思いを寄せる琴子にはまったく見向きもされないことに悩む。
純は、母親が出て行ったことを父のせいだと言って父を恨み自暴自棄になる。
伊尾は父の再婚で東京から大阪の地方都市に引っ越してきたことに閉塞感を感じ、東京に戻りたいと言い、継母と、純と、肉体関係を持つ。
贅沢な悩み、身勝手な悩みも含め、各人各様の悩み・鬱屈が、交錯し絡んだりほどけたりする様が切なく描かれ、そこを見て味わう作品です。
高校生主体の青春群像劇ですが、家だけ、ラブホだけの体だけの関係を8人と持った後に業平に一目惚れした娘を「あの子もやっと恋愛始めたんやなぁ」「初恋」としみじみ言う琴子の母楓(江口のりこ)、ゆかりが連れてきた男友達におならを嗅がせて「ソースの匂いやろ」とおどける縁の父(山中崇)、娘に無視されても食事を作って待ち続けるけなげな純の父など、親たちのキャラも味わい深く思えます。
目が悪くて星が見えないという業平に指を1本立てて「これは?」と聞き、「1」と答える業平に対し、「ブ〜ッ。指でした」と答える縁。優等生でも、機会があれば笑いをとろうとする大阪の風土が現れています。
縁のうちで家族と業平が食べるご飯も、純が朝帰りして待ち受けていた父が用意していたご飯も、お好み焼き定食(ご飯と味噌汁とお好み焼き。お好み焼きをおかずにご飯を食べる)というのも、大阪以外ではまず見られない光景です。
そういうコテコテではない大阪感も見どころかも知れません。
(2020.8.2記)
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