◆たぶん週1エッセイ◆
映画「アラビアのロレンス 完全版」
アラビアでは英雄だがイギリス軍司令部に戻れば組織の駒という落差がポイントで、自信なさげな目が印象的
CGもない時代に撮影した砂漠での進軍や、砂漠の朝日、夕陽の映像の美しさに感心する
テアトル東京Classics「アラビアのロレンス 完全版 ニュープリントバージョン」を見てきました。
超有名作品の大スクリーン上映でテアトルタイムズスクエア単館上映ということもあってでしょう。平日の(といっても12月29日は実質は休日でしょうね)午前中からの上映で、テアトルタイムズスクエア340席が8割方埋まっていました。私はテアトルタイムズスクエアにこんなに客が入ってるのを見るのは初めて。
ほぼ4時間にわたる長編で1部・2部になっています。前半はかなりわかりやすい展開で、イギリス軍中尉のロレンスがアラビアに派遣され、人命を大切にしながらヴェドウィンの信頼を得、横断不可能とされたネフド砂漠を横断してトルコ軍の背後を突いて要衝アカバを攻略し、大成功を収めます。後半では、ロレンスはカイロの司令部とアラビアの戦場を行き来しながら戦意を喪失したり、ダマスカス攻略の前には敵軍の皆殺しを指示したり、ぶれを見せ、ダマスカスでは国民会議を率いてアラブの独立を図りますが、アラブ側の部族抗争とイギリスとアラブ王族の利害の前に計画は挫折し、失意のうちにアラビアを去ります。
アラビアでは人望を集める英雄ですがイギリス軍司令部に戻れば組織の駒という落差が、全体を貫き、ロレンスが意図し、またアラブ人に約束したアラブの自治が、イギリスの利益の前に葬り去られていくということがストーリーの軸になります。この点は、イギリスの2枚舌でもありますが、イギリス軍からすれば一介の将校に過ぎないロレンスの権限逸脱と見ることもできます。ただ、ダマスカスでの国民会議の部族対立による瓦解が強調されるのは、アラブ人には自治能力がないとして植民地支配を続けたいイギリスの主張を代弁するもので、いまどき見るにはうさんくさい感じがします。
ロレンス(ピーター・オトゥール)の目が、アラビアでヴェドウィンを率いて作戦を指導しているときでさえ、自信なさげなどこかおどおどした様子なのが、印象に残りました。イギリスへ帰れば一将校ということから来るものか、後半のぶれを予期させるものなのかも知れませんが、ハリト族の代表者のアリ(オマー・シャリフ)のどっしりした鋭い視線と対照的でとても目につきました。
CGもない時代に撮影した砂漠での進軍や、砂漠の朝日、夕陽の映像の美しさに感心します。映画全体としても、カットが長く、台詞や表情が染みるまでの間がたっぷりとられ、のんびりした時代の作品だなぁとしみじみ感じました。今ならきっと、もっと短いカットで早く展開して2時間半に収めるでしょうね。
(2008.12.30記)
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