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たぶん週1エッセイ◆
映画「赤と黒 デジタルリマスター版」

 55年前のジェラール・フィリップ主演の映画「赤と黒」のデジタルリマスター版を見てきました。
 封切り2週目日曜昼、銀座テアトルシネマ単館上映ということもありほぼ満席でした。

 職人の息子に生まれたがラテン語を理解する美貌の青年ジュリアン・ソレル(ジェラール・フィリップ)が、レナール町長の子息の家庭教師となり夫人のルイーズ(ダニエル・ダリュー)と不倫の関係となるが、ジュリアンが手を出して捨てた召使いエリザが噂や手紙でジュリアンとルイーズの不貞の事実を広めたことから、ジュリアンはルイーズと離れて神学校に入り、そこで世話になった司教の紹介でパリの公爵の秘書となりそこで公爵令嬢と肉体関係を結び、既成事実をてこに公爵に結婚を認めさせて中尉となるが、そこに懺悔で教誨師に不貞の事実を告白したルイーズの手紙が届き、怒ったジュリアンがルイーズに発砲して殺人未遂で起訴され裁判で死刑判決を受け、面会に来たルイーズと愛を誓うというお話。

 映画のトーンとしては、ジュリアンとルイーズの純愛という線なんですが、どうにもこの2人の人柄と関係に共感を持てません。
 ジュリアンは、兵役を避けるためと、国王が司教から祝福を受ける際に跪くのを見て司教になろうと考える打算と権力志向の塊のような人物。ナポレオン時代なら兵隊になりたかったといいながら今は兵隊は嫌だといい、それにもかかわらず町長に警護隊に推薦してもらったり公爵に中尉にしてもらってご満悦だったり、華々しさや権力を持てるならOKという節操のなさ。本来相反する軍人の赤と僧侶の黒を両方追い求める人物です。裁判でジュリアンは下層階級の者が貴族社会に入り込もうとしたことが裁かれていると論じていて、それ自体は貴族・上流階級嫌いの私も同感しますが、それをいうなら同じ階層のエリザを踏みつけにするなよと思います。ジュリアンにはイケメンなら女はすぐになびくという傲慢さがみえみえで、映画では(実社会でも・・・)その通りに進んでしまうことも情けない(ここは、単なる嫉妬(^_^;)。終盤のルイーズへの発砲も、いかに打算のためとはいえ僧侶の道を目指した者がミサの最中の教会で発砲する、そしてかりそめにも軍人となった者が無抵抗の女性に後ろから発砲するって、良識のかけらもなく卑怯きわまりないでしょ。
 ルイーズの方も、ジュリアンが夜ばいにやってくると、すぐに体を許し、その後は自分が積極的になって夫に平然と嘘をつき不貞の関係を続け、ジュリアンが来ない夜があるとなぜ来ないと言い募り自分から迎えに行くという始末。それだけならまだしも、あきれ果てるのは、子どもが病気になり高熱にうなされているのを、一旦は自分の罪と思いながら、夫が席を立つと高熱にうなされる子どもをほったらかしてジュリアンと別れる別れないの話ばかり。ジュリアンの裁判で死刑が宣告されると、夫が止めるのを振り切って、それも子どもにもう会えなくなるぞと言われてもなお振り切って馬車を降りジュリアンの牢獄に入り込んで愛を誓い抱擁し合うって・・・
 ジュリアンに弄ばれて捨てられたエリザや、ルイーズの不貞を知っても許したのにそれでもさらに裏切られるレナールの姿を見て、なお身勝手な関係を続けるジコチュウ2人を純愛とは、私は受け止められませんでした。

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