◆たぶん週1エッセイ◆
映画「シェルブールの雨傘」
誰もはっきりした悪役でもなく、それぞれが思いを残しながら引き裂かれた愛の物語は、2人を引き裂いた戦争への静かな抗議となっている
フランス語の台詞がとても聞き取りやすく、フランス語会話教材代わりになるかも
1964年のミュージカル恋愛映画「シェルブールの雨傘」デジタルリマスター版を見てきました。
シェルブール傘店の17歳の娘ジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は修理工のギイ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)との恋に夢中。母親(アンヌ・ヴェルノン)の反対を無視してデートを続けますが、ギイに2年の兵役の徴集通知が来た日、ジュヌヴィエーヴはギイと結ばれます。行かないでと泣くジュヌヴィエーヴを置いてギイは兵役に向かい戦地に派兵されます。その後ジュヌヴィエーヴは妊娠したことを知り、産む決意をしますが、ギイからの手紙が少ないことを悲しみ、ギイは子どもができることを喜びつつ戦地で危険にさらされ帰れないことを悲しんでいます。そこに母子の傘店の経営的危機を救い支えている金持ちの実業家ロラン・カサール(マルク・ミシェル)がジュヌヴィエーヴに求婚し、ジュヌヴィエーヴはギイの手紙が少ないこととカサールがジュヌヴィエーヴの妊娠を知ってもなお心を変えないことに打たれてカサールの求婚を受け容れてシェルブールを出てパリに行きます。その後、脚に負傷を抱えて戻ってきたギイはシェルブール傘店が人手に渡ったのを目にし、ジュヌヴィエーヴが結婚したことを知り、荒れますが、長年同居してきた病床の伯母(ミレイユ・ベリー)が亡くなり、長らく伯母の看病に通ってくれた幼なじみのマドレーヌ(エレン・ファルナー)が去ろうとしているのを見て、心を改めマドレーヌと結ばれ、伯母の遺産でガソリンスタンドを開業します。4年後、子どもも生まれ、マドレーヌと幸せに暮らすギイの元を、子どもを連れたジュヌヴィエーヴが訪ね、6年ぶりの再会となります。
ジュヌヴィエーヴとギイの恋愛を戦争と店の経済事情が引き裂き、お互いに思いを残しながら結ばれ得ない悲恋という仕立てになっています。子どもに付けた名前が、ギイの徴集前に語っていた女の子ならフランソワーズという会話のまま、ギイの子が「フランソワ」、ジュヌヴィエーヴの子が「フランソワーズ」というところに思いが残されています。まぁありきたりの名前だから気にしなくていいでしょうけど、ジュヌヴィエーヴの方はギイの子だし夫もその覚悟だからいいでしょうけど、ギイの方はそういう名前のつけ方、マドレーヌが可哀想・・・。それはさておき、思いを残した2人が、それを露わにせずに別れるラストが、大人になった2人を示して切なくも美しい。今幸せかとやや未練を残して聞くジュヌヴィエーヴに対して、妻子のことを思って、幸せだよと言い切るギイはむしろ立派と言えるでしょう。
この映画では、悪役になるはずのカサールも、ジュヌヴィエーヴが他の男の子を妊娠していると知ってもなお求婚を続け、むしろ立派。ギイと将来を誓いながら金持ちの男の求婚を受け容れたジュヌヴィエーヴも、ギイが生きて帰ってくるのかすらはっきりしない状況、他の男の子どもがいてもかまわないというほど愛してくれる求婚者の登場、17歳という年齢を考えれば、責めるのは酷に思えます。逆に、それだけ愛してくれる夫になお不満なのかというラストシーンではありますが、抑えた対応は許される範囲でしょう。
誰もはっきりした悪役でもなく、それぞれが思いを残しながら引き裂かれた愛の物語は、2人を引き裂いた戦争への静かな抗議となっています。
その静かな反戦のメッセージは、この映画が作られた後運転開始されたラアーグ再処理工場によってシェルブールが核燃料の搬入・搬出港となりシェルブールの街のイメージが変わった後で見る観客には、初公開時とは別の感慨を与えるかも知れません。
45年前の映像ですが、カラフルな画像に驚きます。1つ1つとってみればけばけばしいはずの原色の服や傘や部屋の壁などが、お洒落に見えるのは、さすがフランスというべきなのか私のフランスへの思い込みなのか。最初のシーンで路上を行き交う傘と人の流れも、とてもわざとらしいし、雨の落とし方も稚拙なんですが、でもすごく洒落て見えます。
このカラフルな映像の美しさ、抑え込んだラストの味わい(劇的な恋愛ドラマ的エンディング−例えば「卒業」のような−を期待する人には物足りないでしょうけど)、ジュヌヴィエーヴの切ない歌声(ダニエル・リカーリ:歌はドヌーヴじゃないんですね・・・)だけでも見る価値ありだと思います。
それと、昔の映画で昔は今ほど早口じゃなく台詞がはっきり語られたためか、ミュージカルのためか、フランス語の台詞(全部歌ですが・・・)がとても聞き取りやすい。聞いてどれだけ意味がわかるかは別として(^^ゞ。フランス語会話教材代わりになるかも。
(2009.2.15記)
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