◆たぶん週1エッセイ◆
映画「マチルダ 禁断の恋」
序盤の舞台の最中に胸がはだけるハプニングにまったく動ぜず最後まで踊るマチルダのプロ意識に惚れる
いとこのアンドレイの軽い節操のなさが、意外にいい味を出しているかも
ロシアロマノフ朝最後の皇帝ニコライ2世とプリマドンナマチルダの悲恋を描いた映画「マチルダ 禁断の恋」を見てきました。
公開2日目日曜日、ヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(162席)午前10時15分の上映は、1割くらいの入り。
父親アレクサンドル3世が列車事故で重傷を負い皇位継承の時が近づくニコライ2世(ラース・アイディンガー)は、若きバレリーナマチルダ・クシェシンスカヤ(ミハリナ・オルシャンスカ)に惹かれ、軍人の競技会の余興の間にマチルダを部屋に誘い込み関係を迫るが、1度だけの関係と聞いたマチルダに去られた挙げ句、競技会で勝ち得た王冠をマチルダに捧げようとマチルダを探すヴォロンツォフ大尉(ダニーラ・コズロフスキー)に襲われてしまう。マチルダと深い仲になったニコライ2世の元に母が推す婚約者アレックス(ルイーゼ・ヴォルフラム)が訪れ、マチルダに結婚を迫られたニコライ2世は、マチルダの言葉を信じていとこのアンドレイにマチルダの血縁を調べさせてポーランドの王位継承者資格があることを証明させようとするが…というお話。
序盤にマチルダの見せ場が2つ用意されています。1つは、ソロの舞台で、先輩プリマドンナレニャーニから次の主役はあなたねと声をかけられた際に肩紐を引っ張られ、踊っている最中に肩紐がほどけて胸がはだけるという嫌がらせを受けた際に、動じずはだけた胸を隠そうとする素振りも見せず最後まで踊り続け、ポーズを決めて目力のある笑顔を見せるシーン。これを見たニコライ2世がマチルダに夢中になるという設定ですが、うん、これは惚れる。おっぱいポロリのサービスカットというよりも(サービスカットの性質はあるとは思いますが)ハプニングに動じないマチルダの精神力と、最後まで踊りきって笑顔を見せるプロ意識に感心します。
次いで、ニコライ2世に誘われた部屋で、1度だけの関係だ、次を期待しないで欲しいといわれ、ネックレスを首にかけられて、主役がとれるように力になるといって抱こうとするニコライ2世をかわし、正面からにらみつけて、あなたは私を忘れられない、嫉妬に狂うことになるといって、ネックレスを外して部屋から立ち去る姿。これがまたりりしい。この強気さ加減は、傲慢さと紙一重で、たぶん現実に目の前にこういう人がいたらタカビーで嫌なやつだと思う可能性の方が高いのですが、その前の舞台のシーンの残照で、やはり強い魅力に感じます。この2つのマチルダの魅力に、最初は一夜の遊びのつもりでいたニコライ2世が引き込まれのめり込んでいくわけです。(ただ、後者は、すぐに乗り込んできたヴォロンツォフ大尉にマチルダが逃げて震えるシーンが続くのでりりしさの印象が大きく減殺されてしまうのですが)
序盤は強さが印象的なマチルダですが、ニコライ2世と深い仲になってしまい婚約者が出現すると、追う側、結婚を求める側になり、今ひとつ精彩を欠くようになってしまいます。
しかし、ここでマチルダと絡むのが、ニコライ2世のいとこのアンドレイ。このアンドレイが、ニコライ2世のいとこでニコライ2世に任されてマチルダの手伝いや案内役をするのですが、一方で自分もマチルダに気があって合間合間に口説いたりします。それでいてあまりそこに葛藤を感じるふうもなくて、どういうモラル感なのよとも思いますが、悲壮感漂うニコライ2世と好対照の軽さを感じさせます。その2人をまた、マチルダが手玉に取る場面があり、マチルダの魅力が息を吹き返す、といった風情です。ストーリーとしては、ニコライ2世との悲恋なのですが、マチルダにとっては、軽めのアンドレイの方が実は御しやすく安心感があったかも知れません。
儀式の場面等の絢爛豪華さ、バレエの舞台の華やかさ軽やかさなどの映像美が見ていてお得感があります。
決め技のフェッテ32回というのは、現代のトリプルアクセルのような感じでしょうか。
(2018.12.9記)
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