◆たぶん週1エッセイ◆
映画「夏の終り」
瀬戸内晴美(現瀬戸内寂聴)の自伝的恋愛小説を映画化した映画「夏の終り」を見てきました。
封切り2週目日曜日、テアトル新宿(218席)午前11時20分の上映は3割くらいの入り。
妻子ある作家小杉慎吾(小林薫)と不倫関係を続けて8年になる相澤知子(満島ひかり)を、ある日かつて知子が好きになり夫と別れる原因となった男木下涼太(綾野剛)が尋ねてきた。その日は知子が留守で涼太は慎吾に応対されてそのまま帰ったが、風邪を引いて寝込む知子を置いて慎吾が妻の元へ帰った正月、知子は涼太を呼び出す。知子からそのことを聞いても、楽しかったかいと聞くだけの慎吾を尻目に、知子は涼太との関係を続け、慎吾がいる夜にも家を抜け出して涼太の家に泊まるようになる。しかし、涼太に帰らないように求められると、知子はあんたにはわからないと涼太を拒否し…というお話。
共に過ごした8年の歳月を愛じゃなくて習慣になったと言いつつも慈しむ思いを持ち、しかしその相手が妻と別れる気配もないことに時に苛立ち、かつての愛と情熱を燃えたぎらせながら、その相手の性急さ狭量さにまた苛立つという、どちらにも満足できない知子の揺れる思い、焦燥感、悲しみがテーマとなっています。
一見鷹揚に2人だけで飲んだりしている(そのシーンは映像としては出て来ませんが)慎吾と涼太ですが、涼太は知子に慎吾の態度は愛じゃないと言い、慎吾は涼太について他人のものばかり欲しがる男だと言います。涼太は知子に電話で泣きすがり、慎吾は知子に死にたいと言い募ります。知子も嫉妬に駆られ取り乱すシーンもありますが、恋する男たちのふだんは取り繕い取り澄ましながらも、きれいごとですまない見苦しい様子が、見どころになっていると思いました。
現在と回想シーンが入り交じって展開しますが、回想シーンであることがはっきりとは示されないので、ちょっとストーリーを追いにくいように感じます。
慎吾と知子が知り合うシーン、自信を失っていた作家が居酒屋で看板まで飲んでいて店の従業員の知子から女1人で生きる辛さを愚痴られ、他方で作品読んでます、先生は才能がある、もっと書いて欲しいと言い寄られ、旅行に行こうという流れになります。腕一本にかかっている作家という仕事をしていると、自信をなくしているときには特に、心のよりどころになる理解者が欲しいでしょう。そういう心の隙間に入り込まれると、溺れることもあるでしょうね。分野は違えど言論で勝負する場面が多い仕事がら、見ていてさもありなんと思ってしまいました。
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