たぶん週1エッセイ◆
映画「大奥〜永遠〜」
ここがポイント
 序盤、宴に招かれた綱吉が、「夫を差し出せと」と絶句する成貞を追い出し、「上様、それだけはご容赦を」とひれ伏して懇願する阿久里に言い寄る綱吉の姿が圧巻
 「男女逆転」と言いながら、作っている人たちの保守的な志向と性役割観を感じさせる

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 男女逆転大奥シリーズ映画第2弾「大奥〜永遠〜」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、シネ・リーブル池袋シアター2(130席)午後1時30分の上映は3割くらいの入り。

 男だけが罹る疫病の蔓延で男が激減し政治の表舞台を女が担うようになって30年、徳川5代将軍綱吉(菅野美穂)の正室信平(宮藤官九郎)は子ができないままに「御褥下がり」の35歳を迎えることとなり大奥での権力を維持するために京都から公家の右衛門佐(堺雅人)を呼び寄せた。右衛門佐は学識で綱吉を魅了し、綱吉から御褥を申しつけられた際に自分は来年35歳となり一時の寵愛を受けてもその後は地獄と述べて大奥総取締の座を射止める。綱吉の子松姫の父伝兵衛(要潤)と綱吉の父桂昌院(西田敏行)、信平と右衛門佐の間で綱吉の次の子産みをめぐって権力闘争が強まる中、5歳になった松姫が熱病で死に、綱吉は世継ぎ作りに専念させられ若い男に次々と御褥を命じてゆくが一向に懐妊の兆候がなく・・・というお話。

 序盤、初恋の男阿久里(榎木孝明)が嫁いだ先の備後の守成貞(市毛良枝)邸での宴に招かれた綱吉が、もう休みたいと言い、寝所で成貞が侍らせた若者たちを全員下げさせ、成貞にも下がってよいと伝え、困惑する成貞の前で阿久里は残れと言い放ち、「夫を差し出せと」と絶句する成貞を追い出し、「上様、それだけはご容赦を」とひれ伏して懇願する阿久里に言い寄る綱吉の姿が圧巻。綱吉はその後も1月に5度も成貞邸に通い、すすり泣く成貞を尻目に阿久里に御褥を申しつけ、さらにはその息子をも餌食にした挙げ句、阿久里と息子は精を吸い尽くされてか病死、悲嘆に暮れる成貞は所領を返上して隠居とあいなります。このエピソード1本で、男女逆転の世の中、綱吉の横暴さ、反倫理的で強欲な独裁者の悪逆非道とその犠牲者の哀れさなどが一気に印象づけられます。この部分は巧みな展開・演出といえるでしょう。
 しかし、その後右衛門佐が登場してからの展開は、大奥に仕えるようになってほんの数日の右衛門佐がいきなり大奥総取締に任じられたことの不自然さ、権力闘争・権謀術数にのみ関心を払う右衛門佐が最後になって純愛を語ることの説得力のなさなど、今ひとつストンと落ちない感じがあります。
 そこに至る経緯からの不自然さを置いてそこだけを見ると、右衛門佐と綱吉の終盤のラブシーンは、しみじみします。おじさん世代としては「老いらくの恋」には、さまざまな思いが去来しますし、最初に会ったときから傲慢で勝ち気で強かな女だと思い、対等に振る舞いたかったという台詞はちょっとしゃれているかも(それが言える相手がどれだけいるかの問題はありますけど)。
 ストーリーの流れから行くと、綱吉が最も心を許せる相手は、桂昌院と密通していることへの嫌悪感を考慮に入れても、長年仕え続けた側用人で愛人でもある柳沢吉保(尾野真千子)だと思うのですが、綱吉の最後の心のよりどころが右衛門佐になるのは、女が最後に頼るのは男、あるいは恋愛は異性間というメッセージなのでしょうね。前作の吉宗(柴咲コウ)の英断ぶりと比較しても今回は綱吉の愚かな女ぶり・内心の弱さが強調されていることも含め、「男女逆転」と言いながら、作っている人たちの保守的な志向と性役割観を感じさせます。 
(2012.12.30記)

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