庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「オッペンハイマー」
ここがポイント
 正義なり志を抱いて国のために貢献しても権力者や官僚機構に利用されるだけ、と改めて思う作品
 メジャーな映画だけど、制作側に簡単にわかってくれるなよと言われている気がする
    
 アカデミー賞作品賞等受賞作「オッペンハイマー」を見てきました。
 公開3日目日曜日、新宿ピカデリーシアター1(580席)午前10時30分の上映は8〜9割の入り。

 第2次世界大戦終戦後、プリンストン大学の研究所長に招聘されたJ・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、原子力委員長ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)に所長室に案内され、庭の池の前に佇むアルベルト・アインシュタイン(トム・コンフィ)を見つけて話しかける。オッペンハイマーは回想に浸り、数年前にアインシュタインに教えを請いに行ったときに思いをはせ、ストローズは商務長官任命に先立つ公聴会に赴き・・・というお話。

 原爆の父(マンハッタン計画のプロジェクト・リーダー)オッペンハイマーの話なんですが、設定としてはオッペンハイマーとさまざまな因縁のある原子力委員長ストローズの商務長官任命に先立つ議会の公聴会を大きな枠組みとし、同時並行的に原子力委員会がオッペンハイマーの機密アクセス権を更新しなかったことに対するオッペンハイマーの不服申立の審査のための非公開の聴聞会を続け、その中でオッペンハイマーの回想が続くという入れ子の構造となっていて、率直に言ってわかりにくい。
 私の目には、正義なり志を抱いて国のために貢献しても、特に(元)左翼とか人道的な人物は、権力者や官僚機構に利用されるだけで、自分の考えを通したり信念を貫くことなどできないというのがテーマなりメッセージなのだと見えますが、たぶんそうシンプルに描くのをよしとせずに、さらにオッペンハイマーを利用しようとした政治家もまた足元を掬われるという構図にしたくて、こういう設定を選択したのだろうなと思いました。
 オッペンハイマーについても、日本への原爆投下への積極意見と水爆開発への反対意見を並べ、さらにその論調も時々でうつろわせ、また私生活面も含めて迷いを描き、人と人生の複雑さを印象づけています。
 アカデミー賞作品賞を受賞し、観客動員も多い大ヒットと言ってよい映画ですが、今ひとつすっきり感がない、制作側も簡単にわかってくれるなよと言っているような印象の作品です。
(2024.3.31記)

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