たぶん週1エッセイ◆
映画「オーケストラ!」

 楽団を追放された元天才指揮者が寄せ集めの楽団員でパリの名門劇場での復活公演をもくろむ映画「オーケストラ!」を見てきました。
 封切りから実に15週目日曜午前の上映は、それでもほぼ満席。封切り時点から上映館がbunkamura等一部に限られていたこともあり、人気が続いています。観客層は女性同士が多く、次いでカップル。

 かつてボリショイ交響楽団のマエストロといわれた天才指揮者アンドレイ(アレクセイ・グシュコブ)は、ブレジネフ時代に楽団からのユダヤ人排斥に反対したために自らも楽団から追放され、今はボリショイ楽団の清掃員としてようやく暮らしを立てていた。ある日、支配人の部屋を清掃中にパリの名門劇場シャトレ座からの公演依頼のFAXを手にしたアンドレイは、FAXをこっそり持ち帰り、かつての仲間たちを集めてボリショイ楽団を名乗ってパリで公演を実現しようともくろむ。かつて自分を追放したガヴリーロフ(ヴァレリー・バリノフ)をマネージャーとしてシャトレ座と交渉させ、ソリストにスターヴァイオリニストのアンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)を指名するなどして条件をのませるが、苦労して集めたメンバーはパリで飲んだくれてただ1回しか取れなかったリハーサルにも現れず、あきれ果てたジャケからは公演の中止を通告され、アンドレイはやけ酒をあおり酔いつぶれるが・・・というお話。

 コンサート実現までの難題が降りかかってはあっさり解決していく様や、昔取った杵柄の30年ものブランクのある連中が寄り集まってリハーサルさえなしで公演を成功させるなど、かなり無理な設定ですが、そこは映画だからねということで我慢しましょう。それを前提にしないと見れない映画です。
 むしろテーマは、昔の仲間への愛情と連帯感です。アンドレイの昔の仲間との演奏を実現したいという思いに加えて、アンドレイの力及ばずに犠牲となった今はなきユダヤ人の楽団員への思い、楽団員のアンドレイや昔の仲間への思いといったものが、終盤に向けてばらばらだった楽団員の行動と演奏を1つに収斂させハーモニーを描いて行く様が見どころです。
 ついでにいうと、口入れ屋というか日雇い派遣の元締めというかでアンドレイを尻に敷いている妻が、アンドレイの無謀な計画を聞くや直ちに賛成し、後悔するアンドレイを励ましと、支え続ける姿に、中年のおじさんとしては感動してしまいます。
 ストーリーは、公演がどうなるのかという点と、アンヌ=マリー・ジャケの両親の正体をめぐって進行し、その点からもアンドレイ夫婦の関係にもハラハラしてしまうのですが、動じない妻の姿勢に、そしてまた友人のサーシャ(ドミトリー・ナザロフ)とアンドレイの姿勢に心打たれます。

 それにしても、旧ソ連時代に追放された人々はロシアになって復権しているかと思っていましたが、今なお底辺の人たちが多いのでしょうか。ユダヤ人迫害の過去とともに考えさせられるところです。
 そういった重いテーマを、音楽と心温まるエンディングで包み込んでみせるところに巧さと味わいのある映画です。

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