◆たぶん週1エッセイ◆
映画「おとうと」
苦労してまじめに生活してきた姉が、問題児の弟に苦しめられながらも断ち切れない絆というのがテーマ
しかし、そこよりも行き倒れた重病患者を引き取って生活保護を受けさせながら看護と看取りをする民間ホスピス「みどりのいえ」のメンバーたちの奉仕の精神に感動する
堅実に生きてきた姉と問題ばかり起こしてきた弟の家族の絆を描いた映画「おとうと」を見てきました。
封切り2週目日曜日午前中は半分くらいの入り。観客層は圧倒的に中高年でした。
夫に早死にされ、義母を引き取って女手一つで調剤薬局を経営して娘を育ててきた高野吟子(吉永小百合)は、一人娘の小春(蒼井優)の結婚式に突然現れたそれまで音信不通だった弟丹野鉄郎(笑福亭鶴瓶)が泥酔して勝手に「王将」を歌い続けテーブルをひっくり返して結婚式を台無しにして新郎側から叱られ親族から縁切りを申し渡されても鉄郎をかばい、友人に着物を借りてきて持ち金をパチンコですった鉄郎に亡き夫の形見の洋服を持たせ帰りの電車賃を渡していた。しかし、吟子の元に鉄郎にこれまで苦労して貯めた130万円を貸して返してもらえないという女が訪ねてきて、吟子は薬局の改装費用に充てる予定だった貯金を下ろしてそれを返済し、その後様子を見に来て女の悪口をいい反省の様子もない鉄郎の態度に憤慨してついに縁切りを言い渡す。「わいみたいな、どないにもならんごんたくれの惨めな気持なんか分かってもらえへんのや」とぼやきながら出て行った鉄郎はその後また音信不通となる。ある日、密かに捜索願を出していた吟子の元に警察から鉄郎が行き倒れて緊急入院したという連絡があり・・・というお話。
薬剤師として住宅地で調剤薬局を経営し、研修も受け続け、夫に早死にされても再婚もせず浮き名一つ流さず義母を引き取り娘を育て、問題児の弟もかばいと、吟子の生き様にはただ頭が下がります。やはりこれぞ吉永小百合のイメージなんでしょうね。
でもなぜか、義母(加藤治子)にはちょっとつれない。3人暮らしなのに「大事な話だからお義母さんはあっちへ行ってて」って。それで「そんなに私が邪魔かい」と拗ねてみせる義母に、あっさり「うん」と追い打ち。ギャグにもなり、またラストへの布石にもなっているんですが、へ〜っと思います。完全な優等生はいないってことでもあるんでしょうけど。
「問題ばかり起こしてはいるけれど愛すべき存在」と紹介される鉄郎。結婚式の件は、吟子の夫の13回忌に引き続いて懲りずにやっているのですからたちが悪いとはいえ、まぁ酔った勢いだし本人は宴会芸のつもりでお祝いの気持ちですからそう悪気がないと言えるでしょう。小春が離婚に至ったのも新郎側の人柄にも問題がある感じですし。しかし、女に大金を貢がせてそれを酒と博打で浪費してその尻ぬぐいを、経営が楽とはとても言えない姉にさせるのは、とても悪気がないとは言えません。それを謝りもせず、自分の気持ちなんてわかってもらえないとぼやいて立ち去るのは、あまりにも身勝手で縁切りを言い渡されても不思議はありませんし、「愛すべき存在」とか憎めないとも言いにくいところです。
もっとも、仕事がら、刑事事件をやっていたときには(今は刑事事件は引退状態ですが)逮捕された被疑者から弁護士費用はこの人(伯父さんとか)が払ってくれるからなんて言われて(こちらはその時点で信じてませんけど)一応電話したらこれまで散々迷惑を掛けられてきてもうあいつとは縁を切ったとか言われることが何度もありましたし、こちらは今でもたくさんやっていますが多重債務の事件で親族が本人を引っ張ってくるケースでは返済資金を出す親族の苦渋に満ちた表情を目にすることが少なくありません。そういう意味で鉄郎タイプの依頼者と時々付き合うことになる仕事をしている者としては、複雑な気持ちにはなります。
さて、映画としては、苦労してまじめに生活してきた姉が、問題児の弟に苦しめられながらも断ち切れない絆というようなテーマと紹介なんですけど、見た感じでは、むしろそこよりも行き倒れた重病患者を引き取って生活保護を受けさせながら看護と看取りをする民間ホスピス「みどりのいえ」のメンバーたちの奉仕の精神に感動します。映画の流れからは、吟子にまた入院費用とか多額の請求が行くのかと思ったら、生活保護費だけでやってます、経営は苦しいですけどって。私なんか、ここの方が泣けてしまいます。それがテーマじゃないはずなんですが、終盤は吉永小百合さえ小日向文世と石田ゆり子に喰われているような感じがしました。
(2010.2.7記)
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