たぶん週1エッセイ◆
映画「パコと魔法の絵本」
ここがポイント
 70年代末頃のアングラ劇団が、もしディズニー系のファンタジーをやったらこんな感じかなという造りの映画
 実はパコが主役ではなく、威張り散らして人を見下して生きてきたおじいさん大貫の改心の物語

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 不思議な病院に入院中のクセのある患者たちが、交通事故で両親と記憶力を失い1日しか記憶が続かない少女パコのためにパコが毎日読んでいる絵本の劇を上演しようとするファンタジー映画「パコと魔法の絵本」を見てきました。

 私が学生時代にたまに見に行った70年代末頃のアングラ劇団が、もしディズニー系のファンタジーをやろうとしたらこんな感じになるかなという造りの映画でした。最初の方はパコが出て来ないで、お城のような病院にいる、影があるけど変に明るかったりする曲者っぽい不思議な人たち(医者・看護婦・患者)の紹介を兼ねたエピソードが続きます。それがどうも昔のアングラ劇団っぽい大時代的な暗さとカラフルな(昔風にいうと「サイケな」)衣装や小道具・大道具とあっけらかんとしたギャグとのギャップを感じさせます。この前半を面白いと思えるか、キワモノと判断して見切るかが、パコが出る前にすでに評価を分けかねません。

 パコ(アヤカ・ウィルソン)が主人公のように紹介され(タイトルからしてそうですしね)、飛び出す絵本の劇をやる話ですし、ガマ王子とかのCG満載ですから、子ども向けの映画のように見えますが、実際に見てみると、これは威張り散らして人を見下して生きてきたおじいさん大貫(役所広司)の改心の物語だと思います。アングラ劇団っぽい演技と雰囲気に違和感なく入れるかとか、パコの設定への思い入れとか考えると、やっぱり私くらいのおじさんがターゲットの映画なんじゃないかと思います。
 「ゲロゲ〜ロ、ゲロゲ〜ロ。ガマの王子は意地悪王子」で始まるパコの絵本自体、意地悪を続けてきた王子が、池の仲間(っていってもそれまでガマ王子がいじめてきた相手ですけど)をザリガニ魔神に滅ぼされて、許せないって思ってザリガニ魔神と戦う、ようするに意地悪ばかりしてきた人が改心する話ですからね。それを地でいく嫌なおじいさん大貫が、純金のライターをなくしてそれを拾ったパコが差し出したのを盗んだと勘違いしてパコを殴り、パコの境遇を聞いて反省してパコのために何かしてやりたいとパコに絵本を読み聞かせ、ついには劇をやり出すというわけです。でも、それにしても大貫、少女をいきなり殴っちゃいけません。公式サイトなんかでも「ぶってしまい」と紹介されていますが、そんなんじゃありません。いきなりストレートが顔面(左頬)に入ります。普通の映画だったらせいぜいビンタだろうってのけぞりました。
 その後、パコの記憶が1日しか続かないことを知らされ、次の日には忘れて大貫に寄ってくるパコの姿に、しかもなぜか大貫がパコの頬をなでると「昨日もパコのほっぺに触ったよね」とそこだけ記憶を持っているパコにほだされて大貫が改心していきます。大貫自身、一代で会社を興して育てたが、心臓病の発作で入院し、会社はそれでも無事回っていくことに疎外感を覚え、それも相まって、心臓病の発作も抱えながら人生を考え直していくわけですが・・・。このあたり、家庭を顧みずに仕事一筋でやってきた「団塊の世代」が引退を控えて罪滅ぼしの気持ちを持つのを反映したという感じもしますが、「孝行をしたいときには親はなし」の上に、かまってやりたいと思ったときには妻にも子どもにも相手にされずかも・・・

 パコは、交通事故で両親を失い、自分も記憶が1日しか続かないようになって、頭の中では毎日が7歳の誕生日です。毎朝、ママから送られた「ガマ王子対ザリガニ魔神」の飛び出す絵本を枕元に発見し「誕生日おめでとう、毎日読んでね。ママより」というようなメッセージを見て、毎日絵本を音読しています。両親を亡くした幼い少女という設定だけでも目頭が熱くなってしまう私には、その少女が両親が死んだことも知らずにママはどこにいるのだろうと思っているとか、記憶が続かず、いつまでも7歳のままの知識と記憶で絵本を読み続けるとかいうのは、もういけません。それだけで何度も泣いてしまいました。そういう意味でも娘を持つ父親には、グッと来る映画です。

 パコと大貫は、実は一番わかりやすいキャラ設定で、それ以外のクセのある脇役たちを味わえるかが、さらにポイントのような気がします。
 そういうことを考えると、たぶんターゲットはおじさん世代だけど、一方でおじさん世代がディズニーっぽいCGの世界や妙に明るい病院の庭とかタイトルバック、そして主題歌に馴染めるかはまた疑問があります。それでけっこうな興行成績を収めてるのを見るとちょっと不思議。

(2008.10.14記)

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