たぶん週1エッセイ◆
映画「パンドラの匣」

 太宰治生誕100年シリーズ第2弾「パンドラの匣」を見てきました。
 封切り3週目土曜日、東京ではテアトル新宿のみの上映ですが、それでも2割くらいの入り。

 第2次世界大戦敗戦の日に激しく喀血して結核療養所「健康道場」に入った16歳の青年ひばりこと利助(染谷将太)が、助手のマー坊(仲里依紗)や赴任してきた新しい組長の竹さん(川上未映子)との淡い恋心を絡めた微妙な思いや同室者の様子などを語り、先に退所した友人のつくし(窪塚洋介)に報告したり、つくしが訪問して竹さんやマー坊との関係をかき乱していく様子を綴った青春ドラマ。
 結核療養所、それも終戦直後のみんなが生活にあえいでいた時代という設定にも関わらず、衣食に困る様子はまるでなく、衣服やシーツは清潔に保たれ、ご飯もおかずもたっぷりで、入所者が死ぬ場面を除けば人々の表情も明るく、別世界のよう。入所者はお金持ちの子弟とかすでに功成り名を遂げた引退者で、庶民の暮らしとはまるで無縁の裕福な人々の優雅な療養所のお話です。助手(看護師)たちも、この時代に化粧をしているのですから、よほど給料もよかったのでしょう。こちらも、庶民からは縁遠い人たちということでしょうか。

 そういう恵まれた人々が山の中に作った別世界の狭い人間関係の中で繰り広げられる、ひばりと竹さん、マー坊、そしてつくしの恋愛の行方は、ひばりは30女の竹さんの思いを受け止めるには幼すぎ、クールな男を気取るつくしに思いを遂げるにはマー坊は直情的に過ぎるし幼い、そういうことから考えればなるようにしかならないけど、思いを寄せる相手は必ずしも合理的な思考からは出て来ないわけで、そのねじれのせつなさが見せどころなんでしょう。
 繰り返し内容のはっきりしない「新しい男」という言葉を使うことをはじめ、日常生活での会話とは思いにくい気取ったり構えたりした台詞で、観念的で生硬な青年と印象づけられるひばりに、どこか違和感を持ちながらも入っていけるか、がポイントになりそうです。
 私には、結局、「やっとるか?」「やっとるぞ」「がんばれよ」「よーしきた」の間の外れた決まり文句の療養所の挨拶と、妙に明るくハイカラな歌声と音楽以外は、今ひとつ印象に残りませんでした。

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