たぶん週1エッセイ◆
映画「すべて彼女のために」
ここがポイント
 妻の無実を疑わず、周囲からたしなめられても動じないジュリアンの一途さが胸を打ち、切ない
 無実のリザは本来は無罪判決で救われるべきで、善良な市民が奪還・脱獄しかないと決意するほど司法に絶望させることは弁護士としては忸怩たる思い
弁護士の視点

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 無実の妻が殺人罪で懲役20年を宣告された夫の妻奪還劇を描いた恋愛サスペンス映画「すべて彼女のために」を見てきました。
 封切り2週目日曜日午前中は7割くらいの入り。全国で2館だけ、東京では民事再生手続中(って言わなくても・・・)のヒューマントラストシネマ有楽町だけの上映で、それも小さい方の63席のシアター2を割り当ててですから、かなり寂しい。ほとんど宣伝してないしねぇ。

 出版社に勤めるリザ(ダイアン・クルーガー)は、その日口論した上司が会社の地下駐車場で強盗に消火器で撲殺されたところで気づかぬうちに犯人とすれ違ってコートに上司の血が付着し、転がっていた消火器を元に戻して、上司の死体に気づかずに車で帰宅し、警察に逮捕される。国語教師の夫ジュリアン(ヴァンサン・ランドン)は妻の無実を信じて面会に通い、裁判の支援を続けるが、上司を憎む動機、コートに付いた血痕、消火器に付いた指紋、現場からの逃走の目撃者と圧倒的に不利な証拠がそろい、3年後懲役20年の刑と決まる。リザは判決と息子オスカルの冷たい態度に絶望し自殺を図る。判決と妻の自殺未遂を見たジュリアンは、妻の奪還を決意して調査と準備を始めるが・・・というお話。

 前半は妻を信じ支え続けるジュリアンの妻と息子を思う気持ちとその孤立が描かれ、後半は妻の奪還を決意したジュリアンの計画の進行と障害が描かれていきます。
 妻の無実を疑わず、周囲から裁判にのめり込むことをたしなめられても動じないジュリアンの一途さが胸を打ち、また切ない。一人で公園で息子を遊ばせるジュリアンに、やはり子どもを公園で遊ばせるバツイチ女がモーションをかけるシーンがありますが、それも歯牙にもかけず袖にするジュリアン。う〜ん、夫の鑑。ただ、その一途さが、裁判に絶望したとき、脱獄・奪還へと暴走する危なさにもつながるのですが・・・
 テーマがシンプルな分、力強く、特に後半はジュリアンの計画の進行と成否に引き込まれていきます。

弁護士の視点
 仕事がら、受刑者と夫・息子の面会が個室で遮蔽板なく立ち会いなしでできる、だから抱き合ってキスもできるって、フランスはいい国だなと思ってしまいます。日本では遮蔽板なしに一つ部屋で面会できるのは未成年者用の施設(少年院とか鑑別所)くらいですし、そのうえ職員の立ち会いがありますし。
 そして、無実のリザは、脱獄・奪還という方法ではなく、無罪判決によって救われるべきですし、脱獄によって幸せになれるとも思えず、リザ自身もそれを望まないはずです。でも、善良な市民を、脱獄・奪還しかないと決意させるほど、そこまで司法に絶望させてしまうことには、弁護士として忸怩たるものがあります。日本の司法はそうではないなどと言える状況ではないだけに・・・

(2010.3.7記)

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