庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ルーム」
ここがポイント
 監禁という犯罪の罪深さを考えさせられる
 ジョイとジャックの部屋への思いのギャップを乗り越えるラストシーンが沁みる

Tweet 

 監禁された女子高生とその間に生まれた男の子の解放後を描いた映画「ルーム」を見てきました。
 封切り3日目日曜日、TOHOシネマズ新宿スクリーン9(499席)午前11時30分の上映は5〜6割の入り。

 天窓だけから日光が入る部屋の中しか知らないジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)は5歳の誕生日にママ(ブリー・ラーソン)とケーキを焼いてご機嫌だったが、ローソクがないと拗ね、日曜日の差し入れで頼んでとねだるが、ママはそういう特別なものは頼めないと苛立つ。夜中に「オールド・ニック」(ショーン・ブリジャーズ)がやってくる日は、ジャックは洋服ダンスで寝かされていたが、ある夜隙間越しに、ビタミン剤を持ってこなかったことを詰るママに対して半年前から失業していて金がないなどと言ってオールドニックが声を荒げるのを聞いた。その後、部屋の電源が切られ、ママはジャックに、7年前17歳の時からこの部屋に監禁されている、この部屋の外に本当の世界がある、テレビに出てくる人たちは「ニセモノ」じゃなくて本当にいる人たちだと説明し、脱出のための作戦を練るが…というお話。

 監禁という犯罪の罪深さを考えさせられる作品です。解放された、世間にとっては「事件解決」の瞬間は歓喜で迎えられますが、ママ/ジョイがアルバムの親友たちとの写真を見て、彼女たちには何も起こらなかったと泣き崩れる場面に象徴される17歳からの7年間を奪われた哀しみ、そして精神的に不安定なジョイが苛立って母親(ジョアン・アレン)に投げつけた「私がいなくても楽しくやってたんでしょ」に対して母親が返す「人生を壊されたのはあなただけだと思ってるの」という言葉(夫婦は離婚/別居していた)に象徴される娘が消息不明の親の苦しみ、テレビ局に代表される世間の心ない質問/視線に傷つき自殺しようとするジョイの容易ではない「社会復帰」など、解放で「一件落着」とは行かない現実が提示されています。
 この作品では、5歳になって初めて知った「世界」「家族」への対応に戸惑うジャックが、しかしそれほど激しいトラウマに悩まされず、祖母が温かく受け入れ、しかも祖母の再婚相手レオ(トム・マッカムス)が意外にいい人でジャックに優しく接してくれるという恵まれた環境の下、ジョイもジャックを心の支えに回復していくという展開となっており、救われる思いです。
 現実の世界では、長期間の経過で、待つ家族もさらにズタズタになり、被害者と家族のずれ/きしみが増幅されて、より不幸な展開になることもままありそうです。
 この作品では、ジョイがジャックをむしろ心の支えにし、祖母もジャックを愛おしく思い受け入れていますが、被害者にとっては監禁・レイプ犯に否応なく産まされた子という側面もあり、愛情を持てない場合も、また家族がそのために受け入れない場合もあると思います(この作品でも、祖父(ウィリアム・H・メイシー)は最初ジャックの方を見ようとしません)。そういう場合でも母は子を守るべきという観念的な対応ではなく、母親の気持ちに即し/寄り添いながら、子どもの幸せのためにどうしたらいいのかを冷静に対応しないとねと思います。

 ジョイにとっては、監禁とレイプ被害の続いた悪夢の場所である「部屋」が、ジャックにとっては、5歳までの生活のすべてであり思い出の場所というギャップに、ジョイの苦悩が募りますが、それを乗り越えるラストシーンがじんわりと沁みます。

 ママ役のブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞を獲得した作品ですが、ジャック役の子役ジェイコブ・トレンブレイの演技が、さらに光っていたと思います。
(2016.4.10記)

**_**区切り線**_**

 たぶん週1エッセイに戻るたぶん週1エッセイへ

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ