◆たぶん週1エッセイ◆
「サラ金地獄」は終わったのか
「サラ金地獄」という言葉が顧みられなくなっても、借金の取立で自殺する人はいる
債権回収会社の恫喝的な取立文書に怯えて自殺する人はいる。そのことを忘れてはならないと思う
今日(2016年10月28日)の朝、警察から、私のところに再相談に来るはずだった相談者が自殺したと、電話が来ました。現場検証に臨んだ警察官が私の名刺と携帯の発信履歴を見て連絡したのだそうです。
その相談者は、2週間ほど前、住民票を移したら債権回収会社から取立の手紙が来たという、ありがちなパターンで、私のところに相談に来ました。事前の電話の段階で、消滅時効が予想される場合のパターンを説明し、弁護士費用も聞かれたので、時効で終わる場合は1社につき手数料として2万円+消費税でやっているという話もしてありました。相談当日、依頼できるかどうか心が定まらないという相談者に、事情を聴いて、十年余り前に弁護士に債務整理を依頼して今回手紙が来た件の消費者金融もその中の1社だということ、その消費者金融から借りた当時住んでいた家は親の名義で今は親族と連絡を取っておらず親が生きているかどうかもはっきりわからないことなどがわかりました。この場合、借金が時効消滅しているというのが一番ありそうなパターンではありますが、前に頼んだという弁護士が和解しているか、和解した場合いつまで支払ったか、どちらにしてもその後貸金業者にどのように対応したか、当時住んでいた家に裁判所から訴状や支払督促が行っていないか(それを確認できるか)によって、時効が成立していない可能性もあります。加えて、時効が成立していなかった場合に、執行対象財産がないから開き直ればいいとか、破産すればいいということになるのかも、親が亡くなっていて相続財産があるということになれば前提から狂いますし、しかも相続財産かもしれない不動産の所在地(かつての住所)を消費者金融が知っているかもというのではリスキーです。そういった事情があったので、債権回収業者は住所がわかっているだけだから今は手紙を送るしかできない、連絡をしろと書かれているので電話などしたら電話番号を把握されて電話で取立が来るだけだから間違っても連絡しないこと、裁判所から文書が来たらすぐに相談に来ることなどを伝えたうえで、まずは前に依頼した弁護士に連絡してどう対応してどうなったかを聞くことと、当時住んでいた家の不動産登記簿謄本をとること、親族に連絡して親の消息を聞くことを勧めました。心が定まらないというのはお金がないということだろうと、相談料は取らずに帰しました。親族に連絡するのが気が進まない様子なのが、気がかりではありましたが。
今週に入り、債権回収業者から1週間以内に支払うか連絡しなければ法的手続に入るという手紙が来たということで、ずいぶん怯えた声で電話してきて、再度相談したいということでした。それで、今日の午後3時にその手紙を持って事務所に来てもらうことにしました。1週間以内に連絡するように書かれていますがと繰り返し言うので、それは決まり文句だから気にしなくていい、連絡したら取立の電話が来るだけと答えました。
昨日、午後の裁判所での業務を終えて事務所に帰ると、事務員が受けた電話の伝言ノートに「心の状態が悪いので、明日の相談はキャンセルさせてください」というメモが残っていました。
警察官の話では、それが携帯電話に残った最後の発信だったそうです。
自殺の理由は、厳密に言えば、わかりません。しかし、この経過から、私は、債権回収会社の、恫喝的な取立文書が原因となったと考えざるを得ません。
借金苦での自殺が報じられて、「サラ金地獄」と言われ、法改正がなされた1983年から30年余りが過ぎ、「サラ金」は「消費者金融」と名を変え多くは銀行の系列下に入り明るいコマーシャルでソフトでフレンドリーなイメージを振り撒いています。消費者金融・信販会社から不良債権の取立を請け負う債権回収業者は、法務省の許可を受けて営業し、法的には時効消滅しているような債権でも恫喝的な文書を送りつけて堂々と取立を続けています。
「サラ金地獄」と言われた時代は、遠に過ぎ去ったものとして顧みられることも少なくなりました。しかし、今もなお、借金の取立での自殺が続いていることを改めて実感しました。自分の手元までたどり着いた相談者を自殺させてしまったことは、悲しく、情けないです。
甘い対応をしていてはいけないのだと、決意を新たにしました。
(2016.10.28記)
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