庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「サウルの息子」
ここがポイント
 サウルの絶望的な状況の中でのしがみつくような懸命さに暗澹たる思いを持つ
 陰鬱さ、細部のわかりにくさ、カタルシスの不足なども含めてカンヌらしい作品

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 アウシュビッツで死体処理係を務めるユダヤ人を描いた映画「サウルの息子」を見てきました。
 封切り3週目日曜日、全国で2館の上映館の1つシネマカリテ2(78席)午前9時50分の上映は8割くらいの入り。

 1944年、アウシュビッツ収容所でゾンダーコマンド(収容所の雑役等をさせるために選抜されたユダヤ人:数か月担当すると抹殺される)として死体処理係を務めるハンガリー系ユダヤ人のサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、ある日、ガス室で生き残った少年を見て、自分が妻以外の女性に産ませた息子だと思った。少年はその場で殺害されるが、サウルは息子をユダヤ教の作法で弔いたいと考え、収容所のユダヤ人医師に遺体を解剖しないように頼み、ラビを探し始めた。一方で、ゾンダーコマンドの間で収容所脱出計画が進み、サウルも声をかけられるが…というお話。

 数か月の延命のために同胞の死体処理に従事するという選択、息子を生かす/脱出させるためではなく死んでしまった者をただ尊厳をもって弔いたいという目的で奔走する姿、絶望的な状況の中でのしがみつくような懸命さに暗澹たる思いを持ちます。
 必ずしも説明的でない映像で、スクリーンが小さく字幕が読みにくかったこともあり、細部はよくわからないところが多かったのですが、終盤のサウルが自分自身が収容所から脱出して生き延びる可能性を見ながらなお息子とおぼしき遺体の埋葬にこだわる姿には割り切れないものを感じました。
 2015年のカンヌ国際映画祭の審査員特別賞(グランプリ)受賞作で、陰鬱さ、細部のわかりにくさ、カタルシスの不足なども含めてカンヌらしい作品です。最初の3週間は東京の2館のみで上映してその後地方で順次上映するようですが、日本でどの程度支持されるでしょうか。
(2016.2.7記)

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