たぶん週1エッセイ◆
映画「しあわせのパン」
ここがポイント
 悲しいときでも、おいしいものを食べると温かい気持ちになれるよねというのが中心的なテーマ
 苦しいと言うより幸せを実感して生きていこう、その方が幸せな気持ちになれる、そういうメッセージを感じる

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 北海道洞爺湖畔の小さな町月浦に移り住んだ夫婦の脱サラ自分探しほのぼの映画「しあわせのパン」を見てきました。
 全国公開から7週目日曜日、ヒューマントラストシネマ渋谷シアター1(200席)午後0時15分の上映は5割くらいの入り。地元室蘭の映画館では「ハリー・ポッターと死の秘宝Part2」を超える動員ペース(10日間で1600人)と室蘭民報2012年2月4日付夕刊の1面で報じられ、全国公開最初の週末は上映館47館(例えばALWAYS三丁目の夕日64の10分の1)で興収ベストテンにギリギリで入るといった話題を提供した作品。ロングラン上映が期待されます。

 好きだった絵本「月とマーニ」を読んでいた頃の幸せからだんだんと大人になって「大変」が多くなり、ただ一人の身内だった父親が死んで「大変」に押しつぶされそうになっていたりえ(原田知世)は、一緒に北海道に行こうと声をかけてくれた水縞くん(大泉洋)と2人で月浦に移り住み、水縞くんがパンを焼き、りえがコーヒーを入れ料理をつくり遠来の客を泊める部屋もあるカフェ「マーニ」を経営して1年になる。北海道の自然と、りえを慕って通う郵便配達人(本多力)、常連の阿部さん(あがた森魚)、地獄耳のガラス職人陽子さん(余貴美子),おいしい野菜を売る広川さんらに囲まれて生きる2人の下へ、夏には失恋したデパートガール香織(森カンナ)と北海道から出たことのない鉄道職員トキオ(平岡祐太)、秋には離婚して母が出て行き沈む少女未久(八木優希)と父(三石研)、冬にはかつて月浦を訪れたことがある地震で壊れた銭湯を経営する阪本夫妻らが訪れ・・・というお話。

 自転車のかごに月を乗せて天空を走る少年マーニの(いかにもE.T.の1シーンから連想したような)絵本、デビュー30年にしてなお中性的なというか浮世離れしたイメージを保つ原田知世、夜空を見上げるシーンの多くで登場する手書きのような月(たぶん絵だと思います。湖に映る月さえ動いてないようですし)といった要素が幻想的なムードを持たせています。

 2人で湖畔の小さな町に移り住んで好きなことをして生きていくことをはじめ、2人の生活をうらやむ声に対して、大泉洋が、てらいなく、そうですと肯定し続けるのが、はじめはえっと思うけど心地よい。いいことばかりではないにしても、基本的にやりたいことをして生きていけることは幸せなのだし、好きな人といられることだけでも幸せじゃないか、苦しいと言うよりも幸せなことを見つめて実感して生きていきたい、その方が自分もまわりも幸せな気持ちになれるじゃないか、そういうメッセージを感じます。

 基本的には、悲しいときでも、おいしいものを食べると温かい気持ちになれるよねというのが中心的なテーマになっています。夏、秋、冬の客たちが悲しみを抱えてやってきて笑顔で帰って行く、その繰り返しになっています。その3つのエピソードがバラバラのままなのが、ちょっと残念な感じもします。りえと水縞くんの生き様がメインで3組の客は話題の提供者に過ぎないという位置づけなんでしょうけど、1本の映画として見るには、そこはもう少し絡ませて落ちをつけて欲しかったなと思います。

 エンディングで流れる忌野清志郎の歌声が懐かしくて、そっちで少しホロリとしました。

(2012.3.11記)

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