たぶん週1エッセイ◆
映画「白いリボン」

 第1次世界大戦直前の北ドイツの農村での事件とそれをめぐる人間関係を描いた映画「白いリボン」を見てきました。
 封切り3週目日曜日、2009年カンヌ映画祭パルムドール作品ながら全国で銀座テアトルシネマ1館だけの上映から始まってようやく全国で3館東京で2館に拡大されて2日目の、銀座テアトルシネマでの午前10時からの上映は8割くらいの入り。観客層は中高年が多数派でした。

 第1次世界大戦直前の北ドイツの農村で、村でただ一人の医師が馬に乗って帰宅途中に何者かにより張られていた細い針金に引っかかって馬が転倒し医師は重傷を負って入院する。続いて男爵家で作業を命じられていた小作人の妻が床を踏み抜いて転落死し、それで男爵に恨みを持った息子が男爵家のキャベツ畑を破壊し、その後男爵家の幼い息子ジギが行方不明になり逆さづりにされてむち打たれた姿で発見され、男爵家の荘園の納屋で火事が起こり、医師の飼っていた小鳥が串刺しにされ、医師を補佐する助産婦の発達障害のある子どもも行方不明となり顔面が血だらけの状態で発見される。次々と起こる事件に、キャベツ畑事件以外は犯人もわからない状態で村人の不安が高まっていく。映画全体の語り手となっている村の若い教師は、男爵家の家庭教師を首になったエヴァと親密になりつつ、助産婦の息子の件を事前に夢で見たという告白をしていた子どもを追及しながら事件の真相に迫っていくが・・・というお話。

 率直に言って、とてもわかりにくい映画です。モノクロの画像はある意味では新鮮なのですが、1つにはモノクロでなじみのない俳優たちやましてや子役たちの区別が付きにくくて人間関係の把握に苦労しますし、登場人物を混同しがちです。もう1つは、モノクロの明るい(要するに白い)部分に白い字幕が重なることが多く、ただでも視力が落ちて字幕を読むのに苦労している私にはほとんどお手上げ(ドイツ語だから耳からはまったく理解できませんし)。
 せめて公式サイトに登場人物の相関図をつけて欲しい映画ですが、公式サイトには、それどころか登場人物名の記載もキャスト紹介も一切なし。
 私が理解した限りでは登場する家庭はおおむね以下のような様子です(上に述べたような状態ですから、間違っている可能性相当あり)。男爵家は、男爵と妻と長男ジギと生まれたばかりの子2人と使用人たちからなり、当然に男爵は権威主義的で村人の半数は男爵の下で働いていますが、男爵に対する反感を持つものも少なくなく、妻の心は離れています。小作人(字幕では「家令」)家は、父親と亡くなった母と息子(2人だったか)と娘からなり、男爵に刃向かうまいとする父親と母親の死で男爵への反感を強める息子の対立が深まります。牧師家は、牧師と妻と6人の子どもたちからなり、映画の序盤で子どもたちが夜にいなかったことを理由に全員夕食抜きの上むち打ち10回が科せられるなど、躾の名の下に厳しい体罰と抑圧が実行されています。医師家は、早くに妻が亡くなり、助産婦が助手兼家庭教師として娘と息子を育てている(助産婦には自分の発達障害のある子がいる)が、実は医師は助産婦を愛人として奉仕させ、さらには自分の娘にまで手を出していた。
 このような、問答無用で厳しい戒律を押しつけて子どもたちを抑圧しつつ自らは放埒で無責任な行動を取る大人たちと、それに対する子どもたちの視線というあたりが映画の基本線になります。ラストの「真相」への対応の仕方も含めて。

 カンヌのパルムドールは、アカデミー賞と違って興行のことは、とりわけ日本での興行のことは気にしてないということでしょうけれど、映画のテーマや内容は観客の側の理解に委ねるとして、せめて公式サイトでの人物相関図と字幕の点は、配給側で何とかして欲しいなと感じました。今回の作品について言えば、内容やテーマの難解さの前に、見せ方レベルでぶん投げたくなる人が少なくないと思えましたので。

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