◆たぶん週1エッセイ◆
映画「ステキな金縛り」
主演の深津絵理に限らず、役者の表情がいい映画だなと思う
法廷シーンは、基本的にアメリカの法廷物を見て作っている感じで、日本の裁判所の実情とは違う
失敗続きのダメダメ弁護士が落ち武者の幽霊をアリバイ証人に呼ぶ法廷コメディ「ステキな金縛り」を見てきました。
封切り初日土曜日、キネカ大森の午前10時15分の上映は3〜4割の入り。観客層は圧倒的に中高年でした。新宿や渋谷だとだいぶ違うかもしれませんが(新宿ピカデリーなんか、一番大きな1番スクリーンが予約でかなり埋まってますし)。
失敗続きのダメダメ弁護士宝生エミ(深津絵理)は、ボス(阿部寛)から、「最後の事件」として妻殺しの容疑で逮捕された矢部五郎(KAN)の弁護を任される。面会に行ったエミに五郎は事件当日は奥多摩山中の旅館「しかばね荘」で落ち武者の幽霊に一晩中のしかかられて金縛りにあい動けなかったというアリバイを主張した。公判前整理手続で担当の小佐野検事(中井貴一)から、そのアリバイ主張を鼻で笑われ、その落ち武者の幽霊を証人として連れてきてもらうしかないですねといわれたエミはしかばね荘に行き、落ち武者更科六兵衛の幽霊(西田敏行)に出会った。自らが北条家の家臣として豊臣側への内通の濡れ衣を着せられて首をはねられた悔しさから成仏できずにいる六兵衛は、五郎の冤罪を知り、証言に同意したので、エミは六兵衛を連れ帰る。しかし、六兵衛は日没後しか姿を現せず、大半の人には姿も見えず声も聞こえない。エミは六兵衛の姿が見える人の共通点を探して誰に六兵衛が見えるかを探るとともに、姿の見えない六兵衛に法廷で証言させる手段を思案するが・・・というお話。
38歳の深津絵理の、ドジだけど一生懸命やってる新人弁護士の初々しい演技と時折見せる会心の笑顔が染みる映画です。阿部寛のボスと中井貴一の検事もまじめそうに見えながらひょうきんなところもあり、外れた言動をまじめな顔で演技し続けてきちんと固めています。ハチャメチャな展開が続く法廷シーンでは、裁判長(小林隆)の腰の低い柔軟というか飄々とした演技が、締めているというかいい味を出していたと思います。
法廷シーンは、日本の刑事裁判ドラマ・映画にありがちなように基本的にアメリカの法廷物を見て作っている感じで、私自身ここ数年刑事事件をやっていないので断言はしませんが、日本の裁判所等の実情とはかなり違う感じがします。今どきあれだけ法壇の高い法廷はないと思いますし、裁判員裁判なら裁判員は職業裁判官と並んで座るはずですし、拘置所の面会室で被疑者と弁護人が電話を使って話すというのも日本ではないと思います。
裁判長の訴訟指揮は、もちろん、幽霊が証言するとかいうど外れた設定ですから考えられない展開とはいえますが、近年は民事部の裁判官には、率直に内心を示しつつ腰が低い裁判官も増えてきていて、予想外の展開になったときに裁判官がこういう選択をすることもありそうな気がして、私にはそういう点でもおもしろく見ることができました。たぶん、刑事事件では裁判官は威厳を示す必要が強いと考えられているのでそうはいかないのだろうとも思いますけど。
主演の深津絵理に限らず、役者の表情がいい映画だなと思います。見得を切っているわけではないけれど、勘所で表情が決まっているという感じがします。「自然さ」はもともと要求されない映画ですから、いかにも演技してるぞって感じともいえますが。
ちょい役(それも登場するのが1分たらずの)に主役クラスの名前が並んでいるのもゴージャスな気分になれます。深田恭子のファミレスウェイトレスとか(「恋愛戯曲」の公開前記者会見では「もう胸の谷間は見せません」と言っていたはずですが・・・)、篠原涼子の金髪のチャラいねぇちゃんとか(ストリッパーと言ってますが、もちろん、そういうシーンはありません)、佐藤浩市のチャンバラ切られ役とか。
原作はないから、名前が呼ばれないちょい役は名前がなくてもいいんですが、公式サイトでは、深田恭子のウェイトレスは「前田くま」。篠原涼子の金髪ねぇちゃんは「悲鳴の女」。何だろう、この違いは。本人にはどっちがいいんだろう・・・
(2011.10.29記)
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