◆たぶん週1エッセイ◆
映画「イニシェリン島の精霊」
もともと合理的な理由もなく始められた戦いを止められない人間の性がテーマ
主要登場人物4名がアカデミー賞主演・助演男優賞、助演女優賞にノミネートされたのも納得の演技
第95回アカデミー賞(日本時間2023年3月13日発表予定)で8部門9ノミネートの映画「イニシェリン島の精霊」を見てきました。
公開3日目日曜日、渋谷 WHITE CINE QUINTO (108席)午前10時20分の上映は5割くらいの入り。
1923年、本土では内戦が続くアイルランド沖の孤島イニシェリン島の農夫パードリック(コリン・ファレル)は、ある日、長年の親友コルム(ブレンダン・グリーソン)から避けられるようになり、話しかけると「お前のことを嫌いになった」と言われ、その理由を聞くと、「退屈だからだ」と言われて呆然とする。パブでコルムは作曲を始め音大生らとバイオリン演奏にいそしみ、蚊帳の外のパードリックは困惑し、コルムに詰め寄るが、コルムはこれ以上話しかけたらそのたびに自分の指を切断すると言い放つ。パードリックの妹のシボーン(ケリー・コンドン)が仲介しようとしたが…というお話。
合理的な理由なく生じた行き違いから諍いが生じ、その過程で意地になり、引っ込みが付かなくなり、振り上げた拳の下ろしどころもなく、無意味に不条理に争い続け止められなくなる人間の性を、戦争の無益さのアピールの趣旨も込めて描いているのだろうと思います。
タイトルから、人の死を予告するというアイルランドの精霊になぞらえた解説をする向きが多いですが、超自然的なものやホラーの映画ではなく、あくまでも人間の性・ありようを描いた作品です。
気のいい人物のパードリック(警官や神父よりも人間的にできている:警官が傲慢で、神父がキレやすく描かれているのは、パードリックの人のよさ、温厚さを際立たせるためでしょう)でさえ、意固地な戦いに引き込まれ止められなくなるという展開が、人間性による解決への絶望を感じさせます。
シンプルなテーマを俳優の渋い演技で見せ続けています。主要登場人物4名(パードリック、コルム、シボーン、ドミニク)が全員、アカデミー賞で主演・助演男優賞、助演女優賞にノミネートされたのも納得の演技です。
他方で、全体としてテーマも展開も重苦しく救いがなく、見ていて楽しめるという作品ではありません。
救いを見出すとすれば、動物たち(ロバ、犬等)の愛嬌と、海辺の風景と夕陽の映像の美しさくらいでしょうか。
舞台になっているイニシェリン島( Inisherin )は架空の島のようですが、公式サイトの写真に組み込まれたタイトルが " The BANSHEES if INSHIERIN "と表記されているのはいかがなものかと思います(デザイナーが2つめの" I "の位置を間違えたことに気がついていないのか)。
(2023.1.29記)
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