庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「マダム・マロリーと魔法のスパイス」
ここがポイント
 ストーリー上は、マダム・マロリーではなくハッサンが主人公
 全体としては料理店の対立よりも、2組の控えめで素直でないカップルの恋の行く末の方がポイント

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 向かい合う料理店の対立を背景にしたほのぼのラブストーリー映画「マダム・マロリーと魔法のスパイス」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、全国25館というディズニー映画にしては小規模なラインナップで東京では4館の上映館の1つシネ・リーブル池袋シアター2(130席)午前11時の上映は2割くらいの入り。観客の年齢層は高め。

 幼い頃から母が取り仕切るインド料理店で育った料理人ハッサン(マニッシュ・ダヤル)は、母を暴徒の襲撃による火災で失い、失意のパパ(オム・プリ)とともに一家でロンドンに行くが野菜がまずいと不満に思い、大陸に渡り、おんぼろ車でおいしい食材のあるところを探して回っていたところ、フランスの小さな町の山中で車が壊れ立ち往生した。そこに車で通りかかった気のいい娘マルグリット(シャルロット・ルボン)に助けられ、地元の野菜で作った料理を振る舞われた一家はそのうまさにビックリする。間近の廃屋を見たパパは、その廃屋を買い取ってインド料理店を開くことを決意するが、向かいにはミシュランの星1つを守り続けるマダム・マロリー(ヘレン・ミレン)の名門フランス料理店「ル・ソール・プリョルール」があった。インド料理店「メゾン・ムンバイ」の開店準備を進めるパパからメニューを受け取ったマダム・マロリーは、開店当日に地元の市場でメゾン・ムンバイの料理に必要な食材をすべて買い占め、パパとマダム・マロリーの対立はどんどんエスカレートしていく。そんなある日、自転車で通りかかったマルグリットと話してマルグリットがマダム・マロリーのレストランの副シェフだと知ったハッサンは…というお話。

 料理に関しては、ハッサンの天賦の才にアジア人らしい勤勉さが加わって、ハッサンがあれよあれよといううちに(玉姫公園と少年院でうろうろしていた矢吹丈がとんとんと世界タイトルマッチを戦うまでに至るように:例えが古い(^^ゞ)料理人界を上り詰めて行き、両店の対立も、マルグリットとの恋も添え物だったように見えていきます。終盤は、パリ版「木綿のハンカチーフ」のようにも(やはり例えが古い)…
 日本語タイトルは、「マダム・マロリーと魔法のスパイス」で、まるでマダム・マロリーが主人公のように見え、ストーリー紹介もマダム・マロリーから始めるのが、通例のようですが、映画の展開は、ハッサンの幼少期から始まりその後の放浪の末にマダムマロリーの向かいに辿り着くもので、マダム・マロリーの登場はけっこう後になりますし、主人公を判定すれば、ハッサンと見るのがふつうでしょう。原作のタイトルは、" The Hundred-Foot Journey " で、マダム・マロリーでもハッサンでもなく、2つのレストランの距離(物理的&心理的)を採りあげています。

 作品の興味としても、2つのレストランの対立がどうなっていくかということも前半ではキーポイントになりますが、全体としてみると2組のカップル、マルグリットとハッサン、マダム・マロリーとパパの、ほのぼのと微笑ましく、しかしやや素直でない関係の行く末にあります。
 私は、自分の年齢からも、老いらくの恋ともいうべきマダム・マロリーとパパの関係に惹かれます。ともに伴侶と死別して、その後を継いでレストランを経営する年老いた頑固な2人が控えめに少し不器用に見交わす視線と心情が微笑ましい。ハッサンへの近況報告に名を借りてマダム・マロリーへの告白を図るパパが、戸田奈津子訳によれば「恋人に近い」 ( almost girlfriend ) 人ができたと言ったのに対して、マダム・マロリーが不機嫌になった(もちろん、いまさら、恋人に「近い」 止まりかと憤慨した)のを見て、「恋人」と言ったのが踏み込みすぎて嫌がられたと勘違いしたパパが慌てて、いや「近い」だよ、「近い」 ( Almost , almost ) と言い繕ってさらに怒らせ、フランス女はわからないと嘆くシーンが、いい。もっとも、 girlfriend はこの場合恋人なのか、マダム・マロリーのような年齢の女性に言う時も、" girl " なのか、そっちに少し引っかかりましたけど。 
(2014.11.9記)

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