庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ジャッジ 裁かれる判事」
ここがポイント
 真実と思える無実主張をメンツのために依頼者が拒否した時、弁護士はどうすべきか弁護士の視点
 リーガル・サスペンスとしてよりも、長らくいがみ合ってきた父子の和解のヒューマンドラマとして見るべき

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 殺人事件で起訴された裁判官を絶縁状態だった息子の弁護士が弁護するリーガル・サスペンス映画「ジャッジ 裁かれる判事」を見てきました。
 封切り3週目日曜日映画サービスデー、新宿ピカデリースクリーン8(157席)午前11時50分の上映は9割くらいの入り。

 妻と離婚手続中の腕利き刑事弁護士ヘンリー(ハンク)・パルマー(ロバート・ダウニー・Jr)は、母の葬儀のため故郷のインディアナ州の田舎町を訪れた。ハンクが少年時代に軽罪で起訴された際に検事が社会奉仕でいいというところを裁判官の父ジョセフ(ロバート・デュバル)が少年院送りの判決をしたことへの恨み、有望な野球選手だった兄グレン(ビンセント・ドノフリオ)の将来をハンクが起こした交通事故で台無しにしたことなどから確執を抱える2人はなおいがみ合う。ハンクがシカゴに帰る飛行機に乗ったところで、ジョセフが保安官に連行されたという知らせが入り、ハンクは引き返すが、ジョセフは地元の弁護士を頼むと言い張る。ハイスクールのコーチがボードで学生の頭をはたいたという暴行事件しか刑事事件の経験がないという頼りない弁護士が何ら反証しないのにぶち切れるハンクの目の前で、ジョセフの殺人容疑での起訴が決まり、ジョセフはようやくハンクに弁護を依頼する。かつてガールフレンドへの暴行で恩情をかけて30日の拘留にとどめた犯人マーク・ブラックウェル(マーク・キーリー)が釈放後その少女を殺害して20年の刑に服して出獄し、スーパーでジョセフと遭遇した後、自らの判決を悔いるジョセフが自転車で走行するマークを轢き殺したという容疑で、ジョセフの車からマークの血液が検出されているが、ジョセフは記憶がないという。ハンクは事故だと主張しジョセフには証言させないというが、ジョセフは証言すると主張し…というお話。

 遺体は谷底で発見されたということですし、被害者は自転車で走行していたということも考えれば、「轢き殺した」のではなく跳ね飛ばして転落死させたのだろうと思いますし、その場合、車に被害者の血液が付着するかなという疑問はありますが、それはさておき、ジョセフが運転する車にぶつかって被害者が死んだこと自体は争いがないので、争点は事故か殺人かに絞られます。犯人が他にいるという事件ではなく、公式サイトのキャッチコピー「父は犯人なのか」はそれだけで既にミスリーディングです。
 最大にしてほぼ唯一の争点とも言えるマークを跳ねたのが事故だったか、ジョセフがマークを認識していたのかに関して、ジョセフの治療のために投薬されている薬の副作用に記憶障害があり、そのためにジョセフが前を走行する被害者を認識していなかったと推測し、その主張を出そうとするハンクに対し、病気を秘匿しており薬品の影響で脳が正常でなかったといってしまえば過去半年間の判決の信頼性が揺らぐといってジョセフは拒否し、治療や服薬の事実を隠し通そうとします。
弁護士の視点
 真相であると睨む無実主張につながる事実について、メンツやプライドを理由に依頼者からその主張を拒否された時、弁護士はどう対応すべきか。弁護士にとっては悩ましい問題です。こういう状況では、依頼者自身が最大の敵にさえ思えます。
 また、ジョセフの主張する「記憶がない」も、弁護士にとっては悩みのタネです。かつて汚職事件で担当する弁護士のアドバイスによってでしょうが多用されて有名になった「記憶にございません」の言葉に対する疑いの目に加えて、本人が「記憶がない」と公言してしまうと、他の証拠が出て来た時には反論ができなくなってしまいます。あとから「目撃者」が出て来てまったく事実と違うことをいいだしても、「記憶がない」以上は、それは違うと言えなくなります。
 そういった難しい状況に置かれたハンクが何を考えどう立ち回るかという点は、弁護士にとっては見どころ、考えどころといえます。

 もっとも、アメリカの刑事裁判では、検察官が証拠提出する防犯ビデオ映像は事前にコピーが弁護人にも渡されていると思うのですが、腕利き弁護士のハンクがマークとジョセフの対面の場面やジョセフが引き返してくるタイミングなどを事前にチェックできていなかったというのは、いかがなものかなと思います。
 また、42年間も裁判官を務めてきたジョセフが、地元の弁護士を選ぶのに、刑事事件をほとんどやったこともない素人同然の弁護士に依頼するというのも、考えられません。自分が法廷で見て一番腕がいい地元の弁護士は誰か、裁判官にはよくわかっているはずなのに。

 法廷シーンはそれなりにあり、尋問のかけ合いは同業者として興味深く見ることができましたし参考になる点もありましたが、リーガル・サスペンスとしては、争点が比較的単純で大逆転という展開も見られません。
 どちらかと言えば、長らくいがみ合いうち解けられなかった父子の追いつめられた状況での和解、心情交流のヒューマンドラマとして見るのが正解だろうと思います。

 ハンクと娘のローレン(エマ・トレンブレイ)の語りが微笑ましく、ローレンがかわいい (*^-^*)
(2015.2.1記)

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