◆たぶん週1エッセイ◆
映画「ランナウェイ 逃亡者」
かつての左翼仲間の自己犠牲を伴う友情が描かれているところが、この作品の一番の味わいか
既に左翼が脅威ではなくノスタルジーの対象であるということかなとも思うが
30年前に組織が行った犯罪で指名手配され潜伏していた男が素性を暴かれ、娘のためにも無実を証明しようと奮闘するサスペンス映画「ランナウェイ 逃亡者」を見てきました。
封切り2週目日曜日、新宿武蔵野館スクリーン2(84席)は5〜6割の入り。観客層は圧倒的に中高年。
1969年にベトナム反戦運動団体から分派し数々の爆破事件を起こした極左学生グループ「ウェザーマン」。ベトナム戦争の終結と共に、活動を終えた彼らはその後忽然と姿を消したが、ミミ・ルーリー、ニック・スローン、シャロン・ソラーズの3人は銀行襲撃で守衛が殺害された事件で指名手配されていた。事件から30年後のある日、子どもも大きくなり仲間に相談して自首しようとしていたシャロン・ソラーズ(スーザン・サランドン)が電話の盗聴を続けていたFBIに逮捕された。地元紙記者のベン・シェパード(シャイア・ラブーフ)は、このような事件を率先して引き受けていた地元の公設弁護人ジム・グラント(ロバート・レッドフォード)が弁護を引き受けなかったことに疑問を持ちジム・グラントの過去を調査するうちにジム・グラントがニック・ソラーズであることを知り、スクープする。危機を悟ったジム/ニックは11歳の娘イザベル(ジャッキー・エヴァンコ)を連れて雲隠れし、イザベルを兄ダニエル(クリス・クーパー)に預けて一人逃走する。ニックは、娘の人生のためにも自分が銀行襲撃には参加しなかったことを証明しようと、実行犯のミミに会うためにかつての仲間たちを尋ねて回るが…というお話。
30年も前の事件の捜査で今なお関係者の盗聴を続けているFBIの執念にまず驚きます。極左グループの犯罪なので、公安的な関心から続けているのでしょうけど、殺人罪などの公訴時効がなくなり(2010年4月27日時点で時効未成立の事件に適用)、組織犯罪の捜査のためには盗聴が認められるなど、厳罰化の世論を背景に捜査の制限がどんどん緩やかになってきている日本でも同じような状況になっていく/来ているんでしょうね。
ベトナム反戦運動の過程で犯された犯罪が取り扱われていることから、その政治的な意味や運動論的なものも含めた評価が前面に出るかなとも思ったのですが、過ちを犯したけれども私たちは正しかったというミミと一般市民に犠牲を強いることには最初から反対だったというニックの議論は、ミミからあなたが来ていれば冷静な判断ができたはずで守衛が死ぬこともなかったはずと言い返され、守衛を殺害することになったことは誤りだという点で一致していて、銀行襲撃以外の国家機関に対する爆破事件は議論の対象にもなっていないので、深まらずに終わります。他のメンバーは、過去のことは振り返りたくない、関わりたくないという姿勢ですし。
そのため、作品の焦点はむしろかつての仲間との関係、思い、絆というところにあるように思えます。原題も The Company You Keep (守るべき仲間、守っている仲間)ですし。
事件から30年、潜伏し別人を名乗って新たな生活を築いている3人に対して、かつての仲間たちは、潜伏を助け、裏切ることなく暮らしてきました。シャロン・ソラーズの逮捕で過去を蒸し返され現在の生活が脅かされるようになり、ニックの接触を迷惑に思う仲間たちも、ニックの必死の思いを拒否はせずにこっそりと対応し、ニックを裏切って通報するようなマネはしません。そして6つの名前を経由してほぼ完璧に存在を隠しているミミも、今でも自分たちは正しかったと考え、権力に投降するときは権力が誤りを認め謝罪したときだと論じながらも、ニックの前に姿を現します。そして、11歳の娘に犯罪者の子としての人生を歩ませたくないという思いからミミに自首と証言を迫ったニックは、FBIの追跡からミミを逃がすことを優先します。
そういうかつての左翼仲間の自己犠牲を伴う友情が人情味ある形で描かれているところが、この作品の一番の味わいかなと思えました(極左って、仲間割ればかりしているというイメージで描かれがちですし)。
そして仲間以外でも、彼らにシンパシーを持ち支援する人が少なくないこと(昔の言葉で言うと「人民の海」ですね)もしみじみとした共感を拡げます。
こういうかつての左翼への少し温かな視線の映画は珍しいのかもと思います。既に左翼が脅威ではなくノスタルジーの対象であるということかなとも思いますが。
ジム/ニックが守りたかった11歳の娘イザベル(イジー)役のジャッキー・エヴァンコ。天使の歌声で名高い歌手で、この作品がスクリーンデビューですが、むちゃくちゃかわいい。
ジムの年齢は明確にされていません(ベトナム反戦の頃学生でそれから30年ですから50代、1年前に死んだ年の離れた妻が48歳ですから50代後半でしょうか)が、77歳のロバート・レッドフォードが演じるという点からみても、逆に11歳の娘がいるという点からみてもちょっと年齢設定に無理があるよなという思いが残りました。
(2013.10.13記)
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