たぶん週1エッセイ◆
映画「キッズ・オールライト」

 同性夫婦と子どもたちの絆を描いた映画「キッズ・オールライト」を見てきました。
 封切り3日目日曜日、シネリーブル池袋午前11時55分の上映は3〜4割くらいの入り。観客の多数派は若者層でした。

 医師のニック(アネット・ベニング)と仕事がうまく行かずにいるジュールス(ジュリアン・ムーア)は、レズビアンカップル。精子バンクで同一人物の精子を買ってニックは娘のジョニ(ミア・ワシコウスカ)、ジュールスは息子レイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)を産んで育てている。18歳になり大学進学を控えるジョニは、15歳のレイザーに頼まれて、精子バンクに連絡して精子提供者を知り、連絡する。ジョニとレイザーの生物学上の父親ポール(マーク・ラファロ)は、レストランのオーナーで、若い恋人と気ままな独身生活を謳歌していたが、ジョニとレイザーと会い、レイザーの母親ジュールスにジュールスが新たに始めた造園の仕事を依頼し、ジョニの家族に接近し、ジュールスと肉体関係を持ってしまう。家族に割り込んできたポールに対してニックは不快感を持ち・・・というお話。

 レズビアン夫婦とその子どもたちという、「ふつうと違う」家族と、「生物学上の父親」という異分子を通じて、同性愛、家族の絆、(生物学上の)父親の存在意義といったことを考えさせられる映画です。
 「ふつうと違う」家族については、すでに「ふつうの家族」というもの自体が少なくなり一種の幻想とも思える今日ですが、実子を育てるレズビアンカップルという設定には、まだこういうフロンティアがあったかという思いがします。その家族愛を描くことで、様々な家族のありようをあるがままに受け止めていこうという制作意図が感じられます。

 同時に、そのレズビアンカップルに、ニックが長時間労働で家族を養いジュールスは定職に就かずすねをかじっているという関係と、エリートで厳格な性格のニックと仕事がうまく行かず拗ね気味でルーズな性格のジュールスという組み合わせで、男女の夫婦にありがちな関係を持ち込んだのは、レズビアンカップルも多くの夫婦に似ているという、親近感からも揶揄的な視点からも考えられる安心感を狙ったものでしょうか。
 レズビアンのジュールスがポールと簡単に肉体関係を持ってしまうのも、レズビアンに対する、本当は男とやりたいんだろというような偏見からとも、その後のジュールスの選択を際立たせるための布石とも、まぁ読めます。
 レズビアンのニックとジュールスのカップルがセックスのムードを盛り上げるために(レズビアンのではなく)ゲイのポルノビデオを見ていたのも、やはり本当は男が欲しいんだろという、レズビアンに対する抜きがたい偏見(というか男性側の願望)からなされた設定とも考えられますし、映画の中でレイザーの質問に対してニックとジュールスが答えているようにレズビアンのビデオは本物じゃない・レズビアンでない女優がやっている(つまりゲイのポルノビデオはゲイの視聴者のために作られ、本物のゲイが演じているが、レズビアンのポルノビデオはレズビアンの視聴者ではなく男性視聴者のために作られ、レズビアンでない女優が男性に裸を見せるために演じている)からむしろゲイのポルノの方が同性愛者にとって親近感を感じるからかも知れません。
 このように一応レズビアンについて好意的な意図という説明も不可能ではない形にはなっていますが、私にはどうも制作サイドにレズビアンを扱いながらレズビアンに対する抜きがたい偏見があるように感じられる点が少なからずありました。それが「ふつうと違う」家族をあるがままに受け止めようという方向性とマッチしない感じがして、ちょっとすっきりしませんでした。

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