◆たぶん週1エッセイ◆
映画「テルマエ・ロマエ」
ローマからタイムスリップしてきたルシウスの現代日本の風物に驚く際の内心の描き方の大仰さが売り。それを平然とやれる阿部寛ははまり役
実は男の裸とけろりんが売りかも…
古代ローマの風呂設計技師が現代日本との間でタイムスリップを繰り返す漫画を映画化した「テルマエ・ロマエ」を見てきました。
封切り7日目金曜日祝日、新宿ピカデリースクリーン1(580席)午前11時50分の上映は、ほぼ満席。観客層のは若者中心。
ゴールデンウィークさなかの新宿ピカデリーは、ロビー全体がパニックを起こしそうな超満員で、予約したチケットの発券機さえ長蛇の列。予約していても、けっこうきわどい入場でした。ゴールデンウィークのこの混雑ぶりは、映画興行の復活か、不景気で遠出しない人が多いのか、単純にピカデリーの宣伝の巧さか(テルマエ・ロマエ、ものすごい広告費かけて宣伝してるけど、これ1064席の新宿ミラノ1でやっても満席にできるでしょうか。私は混んでるところはきらいですから、実際に遭遇したくはないですけど、でもいまやほとんどないあの1000人以上収容のスクリーンが満席になる姿を一度は見てみたいという気もしています)。
古代ローマの風呂(テルマエ)設計技師ルシウス(阿部寛)は、華美を求める風潮に嫌気がさし、新しいアイディアを求めて悩みながら湯船に潜り込んでいたところ、突然、現代日本の銭湯にタイムスリップし、そこで見た富士山の絵や湯おけ、脱衣籠、フルーツ牛乳等の見たこともないものに衝撃を受け、これがローマの属国の奴隷と思われる「平たい顔族」の文化と理解し、再度タイムスリップしてローマに戻り、そのアイディアを活かした新たなテルマエを設計し、人気を得る。ローマでは暴君と恐れられたハドリアヌス帝(市村正親)から呼ばれて話を聞く機会を得て、ハドリアヌス帝のローマを思う心に打たれたルシウスはハドリアヌス帝の希望を活かした新たなテルマエの設計に悩み続けるうちにまたしてもタイムスリップし・・・というお話。
キャストのローマ人としても通じそうな「濃い顔」が話題の作品ですが、主役阿部寛については、現代日本にタイムスリップし驚きながらも、まわりに媚びずまわりに合わせようとせずに超然泰然としている姿が、これまでに築き上げてきたキャラクターとマッチして、そういう点ではまり役のキャスティングだと思いました。阿部寛が現代日本の風物に驚く際の内心の描き方の大仰さが、私たちの世代でたとえれば、巨人の星の星飛雄馬のような感じで、それを平然と演じられるのは、やはり阿部寛かなと。
毎回ルシウスが目の前にタイムスリップしてくるところに遭遇する売れない漫画家役の上戸彩も、また特異なキャラ。最初から女湯に裸の男が闖入してきても、慌てるでもなくデッサン始めるし。
タイムスリップものでは、先週見た「篤姫ナンバー1」ではタイムスリップの原因は流れ星に願ったからで、タイムスリップ先はその彗星の接近したときでした。それで十分ばかばかしかったのですが、この「テルマエ・ロマエ」では、溺れたらタイムスリップして涙を流すと元に戻るというだけで、タイムスリップ先は実際にはいつも上戸彩の目の前ですが、何も説明する気もないという感じ。もともとタイムスリップものにその原理の説明は無理なので、この際説明など一切するまいということでしょう。コメディとしてはそう割り切った方が、見る方も楽かも。
前日の「裏切りのサーカス」に続き、2日続けて主人公が妻に去られる映画をカミさんとみるハメになったのは偶然でしょうか(もちろん、意図してませんが)。ルシウスの妻が、夜な夜な迫る妻に応じないルシウスに愛想を尽かして友人と不貞に走ることについて、しょうがないよねといわれると・・・ (-_-;)
ローマロケも行ったようですが、ルシウスが戦場のハドリアヌス帝を訪ねた帰りに負傷兵を癒す温泉を発見するシーンで、ススキが生えてるのはちょっと・・・
風呂桶をローマでも採用するのはいいですけど、底に「ケロリン」と書かなくても(「クロリく」になってるし)。
阿部寛の飲みっぷりを見るとなつかしいフルーツ牛乳を飲みたい気分になりました。
阿部寛ほかの男の裸がやたらと登場するのと、やたらとタイアップ広告が打たれているのに食傷しますけど、さらっと笑って少ししんみりしてノスタルジーに浸れる無難な娯楽映画としていい線かも。
(2012.5.6記)
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