たぶん週1エッセイ◆
映画「ツリー・オブ・ライフ」

 カンヌ映画祭パルムドール受賞作「ツリー・オブ・ライフ」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、新宿ミラノ1での午前11時の上映は1〜2割程度の入り。

 実業家として成功し壮年に至ったジャック(ショーン・ペン)は、テキサスの街で成功のためには強い意志を持ち力を持つことが必要だと諭す威圧的な父(ブラッド・ピット)と優しい母(ジェシカ・チャステイン)の下で育った子ども時代を回想する。音楽家を目指しながら果たせず、特許をめぐる裁判でも敗れ、リストラに遭いながらも弱みを見せない父。その父の威圧的な態度に反発し、他人の家の窓ガラスを割ったり忍び込んで下着を盗んだりした少年時代のジャック(ハンター・マクラケン)。次男のR.L(ララミー・エップラー)が19歳で死に、悲嘆に暮れる母・・・そういったエピソードを時系列に沿わずに断片的に重ね、宇宙や海中などの大自然の映像を挟んで構成しています。

 断片的な映像が主の前半では、神に捧げた生活では不幸は起こらないという母のナレーションで始まり、19歳の次男が死んで悲嘆に暮れる姿、不幸はどこにも訪れる、不幸から身を守ることはできないと説く神父の説教を通して、正直に生きても不幸を避けられないことの不条理と怒りをテーマとしているように見えます。ジャックの少年時代のエピソードが続く後半は、威圧的な父親への反発と反抗、しかし自分もまた他の者に対しては威圧的なジャックの姿と大自然の映像とを合わせて、親から子への伝承と繰り返し、その枠組みの中で人間が成長してきたことへの気づきをテーマとしているように見えます。
 宇宙や海中、空からの映像は美しく、マリック版「2001年宇宙の旅」との紹介もされていますが、残念ながらすでにこの種の映像を見慣れてしまった現代の観客には、プラネタリウムか環境映像かとも思えてしまいます。特にそういう映像の割合が多い前半はそういう印象を持ってしまいました。ジャックの少年時代の映像が比較的長時間続いた中で挟まれる後半では、延々と続く人間・生物・地球の営みの中での親から子への引継をイメージさせているのだなと理解しやすかったのですが。
 前半のテーマは、信仰心の篤い人々の多い欧米では観客に感銘を与えたでしょうけれども、無神論者というか神に守られているという意識の薄い日本人には今ひとつ琴線に触れない感じがしました。

 最初の方で現れる19歳の次男が死んだ部屋の映像が、最後の方でジャックの父がリストラに遭い引っ越して行く前の家のように見えました(同じ家のように見えましたが、自信はありません。でも、かなり大きな家であることは確か)。引越のときジャックはまだ少年の姿でしたから、次男が19歳で死ぬのは引越後のはずなんですけど。

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