庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「逆転のトライアングル」
ここがポイント
 「逆転」は日本公開用につけられたタイトル
 逆転よりも、内実のない人間の行いの虚しさ、哀しさをテーマとした作品のように思える
    
 2022年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「逆転のトライアングル」を見てきました。
 公開3日目日曜日、休館を1月半後に控えた渋谷Bunkamura ル・シネマ1(152席)午前10時20分の上映は2割足らずの入り。パルムドールに加えてアカデミー賞作品賞ノミネート作品の公開直後としてはかなり寂しい。

 ファッションモデルのカール(ハリス・ディキンソン)は、モデルでSNSのインフルエンサーとして稼いでいるヤヤ(チャールビ・ディーン)と交際中、より稼いでいるヤヤがレストランで支払をする素振りも見せずおごられて当然という姿勢でいることにクレームをつけ、お互いに利用しているだけと言われ、悄然とする。ヤヤが無料で招待されて、2人は大金持ちを乗せた豪華客船でのクルーズに参加するが、乗客は自慢話や我が儘を言い放題、船長は飲んだくれて船室にこもったままという状態で…というお話。

 原題は「 Triangle of Sadness 」ですが、邦題では「逆転のトライアングル」とされ、それに合わせて公式サイトでも「現代の超絶セレブを乗せた豪華客船が無人島に漂着。そこで頂点に君臨したのは、サバイバル能力抜群な舟のトイレ清掃婦だった――。」というキャッチコピーを採用しています。
 3部構成の第3部では、無人島漂着後の話ですが、全体としてみると、カールを初めとするファッションモデルが雇われる企業(ブランド)に応じて節操なく態度を変える様子、外見だけの無内容さ(第1部)、富豪たちの我が儘さと人生と日常生活に退屈する様(第2部)、無人島でかりそめの権力を得たもののその儚い様子(第3部)といった内実のない人の行いの愚かさ、虚しさ、哀しさが通しテーマだと思います。
 原題の「 Triangle of Sadness 」は、眉間のしわの意味で、カールがモデルのオーディションで力を抜いて眉間のしわを消せと指示されるところで登場します。その前に、オーディションの順番待ちで控え室でたむろするモデルたちが取材者から、男性モデルなんて女性モデルの3分の1のギャラでゲイじゃないかと疑われる仕事なのになんでやりたいかと言われ、バレンシアガのときの強い表情とH&Mのときの笑顔を交互にやらされるなどしてからかわれる様子の映像があり、そういったモデルの仕事とそれに従事する自分自身への失望、哀しみを、あるいはそういった感情さえも捨てることを要求される非人間性を、このタイトルで表しているのだと思います。
 豪華客船での富豪たちの様子も、公式サイトで「カンヌ国際映画祭では会場爆笑!」と謳っているのですが、私には笑いのツボがヨーロッパの映画関係者とは違うのか、愚かしさ、虚しさの方が強く感じられました。
(2023.2.26記)

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