庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ワイルド・ローズ」
ここがポイント
 冒頭の出所とその後のシーンでローズ=リンの人柄と家族の関係を描く手法が巧み
 私は、意外にも歌よりもローズ=リンと母、娘・息子の表情が売りの作品かなと思う
    
 前科者のシングルマザーが歌手になる夢を追う映画「ワイルド・ローズ」を見てきました。
 公開3日目日曜日、新宿ピカデリーシアター4(127席/販売60席)午前9時40分の上映は、販売分で見ると7割くらいの入り。朝9時台の上映ということからすれば結構入ってるなと思いました。

 未成年者に麻薬を譲渡した罪で服役していたシングルマザーのローズ=リン・ハーラン(ジェシー・バックリー)は、アメリカのナッシュビルに行ってカントリーの歌手になるのが夢だった。出所後、かつて看板歌手だったグラスゴーのナイトクラブで再起しようとするが追い出され、母マリオン(ジュリー・ウォルターズ)の知人の紹介で富豪の妻スザンナ(ソフィー・オコネドー)の屋敷で清掃婦として働くようになったローズ=リンは、留守中にカントリーソングを歌っていたところに帰宅した息子たちに気に入られ、スザンナからカントリー界の大御所のBBCラジオパーソナリティを紹介されて、ロンドンまで会いに行く。歌唱力を買われ、自分で歌を作れ、どんなメッセージを伝えたいと聞かれたローズ=リンは戸惑い…というお話。

 冒頭、出所の日に居室を整理し、刑務所から出て行くシーンで、まず、イギリスでは受刑者が自分の部屋でヘッドホンでCDを聞けるんだと、日本の刑務所との違いを感じさせます。出所の際に足首にGPSを嵌められて午後7時から午前7時まで自宅にいることを強いられる(たぶん、刑期満了前の仮出所で、その間ということなんでしょう)というのも違いを感じましたが。
 8歳の娘と5歳の息子の2児の母のローズ=リンが、出所して最初に行くのが愛人らしき男のところで、まずは屋外の芝生でセックスするという描写に、ローズ=リンの奔放さ、自己主張の強さ、母親としての自覚のなさが示されます。その後、子どもたちを預かっている母のところに行った際の、母、娘の表情、視線でそれがさらに決定づけられます。あまり台詞を多用せずにローズ=リンの人柄と家族との関係を印象づける手法は巧いなと思いました。
 歌唱力が高く評価され、ロンドンでもナッシュビルでも見知らぬ音楽業界関係者にすぐに認められて声をかけられるというあたりは、非現実的な設定ですが、この作品は、夢の実現に向けたシンデレラストーリーではなくて、むしろローズ=リンが歌手を夢見ながら、自分がどんな歌手になりたいのか、歌手になって何をしたいのかなどが実は見えていなかった、それを考えていくという方にポイントがあります。設定上は、ローズ=リンが歌手になる夢と家族・子どもたちに挟まれて悩むということになっているのですが、そちらよりも、ローズ=リンが本当は何をしたかったのかの方が、本筋に見えました。
 歌唱力が高く評価される歌手の話なので、予告編でも「ラスト5分、彼女の歌声にきっと涙する」とか、歌で売っているのですが、私は、ローズ=リン、マリオン、娘と息子の表情が売りの作品のように思いました。特にローズ=リンの得意げな、調子に乗ったときの表情を好ましく思えるかがこの作品を気に入るかどうかを左右するんじゃないかと思います。
(2020.6.28記)

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