◆たぶん週1エッセイ◆
映画「ウィンターズ・ボーン」
17歳にして一家を支えなければならないリーのりりしさ、生きる意志の強さ、心のたくましさが、感動的
こんな子ががんばってるんだから自分もしっかりしなきゃねと素直に思える
サンダンス映画祭グランプリ・アカデミー賞作品賞ノミネートのインディペンデント映画「ウィンターズ・ボーン」を見てきました。
封切り6日目祝日、全国9館、東京2館の上映館の1つ新宿武蔵野館の午前10時50分の上映は7割くらいの入り。観客層は中高年一人客が多数派でした。
コカイン(字幕は「覚醒剤」ですが)密売で生きる一族の父親は製造役で長らく家に寄りつかず、母親は心を病んで引きこもり、17歳のリー(ジェニファー・ローレンス)は、弟のソニー、幼い妹のアシュリーを守りながら、一家の支えとなり、ミズーリ州の山の中で暮らしていた。ある日、保安官(ギャレット・ディラハント)が訪ねてきて、逮捕されて保釈中の父親が失踪している、この家と森が保釈保証金の担保になっていて、1週間後の裁判に父親が現れなければ家を出て行かなければならなくなると、伝えた。リーは父親を捜し出そうと、父の兄のティアドロップ(ジョン・ホークス)を訪ねるが、ティアドロップは、探すのはやめた方がいい、家に帰れと反対する。リーはさらに一族を訪ね歩くが、従兄は明白な嘘を言い、一族の長は会おうともせず追い返す。保釈保証業者から、父親が裁判に現れなかったことを伝えられ、1週間後に明け渡すことを求められたリーは、一族の長を追いかけるが、一族の者に囲まれて納屋に連れ込まれ・・・というお話。
17歳にして一家を支えなければならないリーのりりしさというか、生きる意志の強さ、次々と訪れる試練にも折れない心のたくましさが、涙ぐましくも感動的な映画です。
単純な正義ではなく、一族がコカイン密売で生きていることを受け止めつつ、自分も「ドリー家」の一員と認識し、保安官には協力せず、自らはコカインはやらず煙草も吸わず、母や弟、妹の世話をしながら、けなげに生きるというリーの生き様が、地に足が付いた感じです。
ひもじさに隣の人にお裾分けをせがみたいという弟に、プライドを持てとたしなめたり、弟や妹にライフルの撃ち方を教えて自立の術を伝えていこうとする姿も(リスを撃って皮を剥ぎ内臓を取ってシチューにするあたり、ちょっとつらいかもしれませんが)、共感しました。
スタートやラストで弟と幼い妹(アシュリー、かわいい!)が無邪気に遊ぶ姿が効果的に使われ、本当は自分もそういう側であってもいい17歳のリーが大人にならざるを得ない境遇にさらに涙してしまいます。
ど派手なシーンはなく、見てすっきりするという映画でもないですが、こんな子ががんばってるんだから自分もしっかりしなきゃねと素直に思える映画です。
いかにもお金がかかってないよねって映画でアカデミー賞作品賞・主演女優賞・助演男優賞ノミネートっていうのも快感だし。でも、そういうの日本では興行的には厳しいでしょうけどね。
ラストで、リーがソニーから聞かれて、字幕で見る限りでは弟と妹を荷物と言って荷物がないと気が抜けちゃうという台詞がありますが、my bag は「荷物」なんでしょうか。文脈はいいんでしょうけどちょっとニュアンスが気になりました。
保釈保証業者が、実質は高利貸しで担保の丸取りを図るというあたり、日本でも金貸しが不動産を仮登記担保と代物弁済予約で丸取りして暴利をむさぼり庶民をいじめていた時代を彷彿とさせます。
コカインの製造で逮捕された父親が、「10年の懲役」が怖くて一族を裏切ったという設定。日本では覚醒剤はたいてい外国製で密輸ですから(本来の意味での)製造事犯はあまり聞きませんが、もし摘発されたら、どれだけの量を製造したということかにもよるでしょうけど、今どきの日本の刑事裁判の情勢では懲役10年では済まないでしょうね。アメリカは刑事裁判の量刑が厳しいという感覚でしたが、日本の方が厳しいかも。
(2011.11.3記)
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