◆たぶん週1エッセイ◆
映画「闇の子供たち」
臓器移植と買春のための児童人身売買がテーマ
単純な勧善懲悪ではなく、スッキリしませんが、深い。罪深い。業が深い
タイでの子どもの臓器移植や児童買春のために行われている児童人身売買をテーマとした映画「闇の子供たち」を見てきました。
8月2日封切りで上映館を拡げながらの7週目祝日朝一番でしたが6割程度の入りでした。重い堅いテーマの作品としては大健闘でしょう。
「日本新聞社」(タイで自己紹介するシーンでは”Japan Times”と言ってましたが、大丈夫でしょうか)バンコク支局の記者南部浩行(江口洋介)が、日本人の子どもの心臓移植手術のための臓器提供者がタイの子どもで生きたまま臓器をえぐり取られる(殺される)ことを掴み、取材の過程で知り合った社会福祉センターのボランティア音羽恵子(宮崎あおい)らも絡んで、手術を受ける子どもの親やタイの人身売買組織に接触し、事実の解明や人身売買の阻止に向けて行動していくストーリーを軸として、いくつかのグループの物語が綴られていきます。
まず冒頭シーンから登場するチェンライの売春宿に売られてエイズに罹りゴミ袋に入れられて捨てられる少女ヤイルーンと、同じ頃人身売買組織に買われた妹のセンラーら人身売買された子供たち。ゴミ袋から自力で脱出したヤイルーンが故郷にたどり着いたときには、この映画で一番の安堵を感じましたが、ヤイルーンが呼びかけ続けるセンラーの運命、そしてヤイルーンのその後の運命には涙します。テーマから考えればそう描くことになるでしょうけど、この2人は救って欲しかったなと思います、感情的には。水遊びのシーンが挿入されているのがあまりに切ない。
続いて、通っていた子どもの1人アランヤーが売られたと知りその救出のため奔走するタイの社会福祉センターの所長ナパボーン(プライマー・ラッチャタ)と職員たち。この中で、最初は日本人ボランティアの音羽が浮いていますが、直情径行の音羽が囚われた子どもの救出のために行動していく中でまわりの職員たちにとけ込んでいきます。
そして、メインストーリーを担う南部ら日本新聞社の記者と、現地で雇われた隠し撮り専門のフォトグラファー与田博明(妻夫木聡)ら取材グループ。移植手術のために殺されるタイ人の子どもを救うために手術を受ける子どもの親を翻意させようと罵る音羽に対し、目の前の1人を救ってもシステムがそのままなら次の子どもが殺されるだけだ、事実を明らかにして見たことを書くのが自分たちの使命だと断言するのですが・・・
日本では子どもの臓器移植ができず、アメリカでは順番待ちで間に合わず、タイでの心臓移植でしか救えない放置すれば8ヵ月の命の8歳児を持つ梶川夫婦(佐藤浩市、鈴木砂羽)。もちろん、5000万円の手術費用を出せる大企業の課長です。
社会福祉センターのチェンライでの代理人でありながら人身売買組織と通じるゲーオや警察に潜む密告者ら一筋縄ではいかない/裏切り者のタイ人たち。
そして、自らも人身売買の被害者だった過去のトラウマを持つ人買いチット(プラパドン・スワンバーン)。
前半は、南部ら取材グループと音羽の対立から、目の前の命の救出か真実の報道かの選択がテーマに見えます。取材グループも苦悩を感じつつも、議論は圧倒的に取材グループの方に説得力があり、音羽の行動はあまりに子供じみた自己満足にしか見えません(現に目の前の命を救うという観点でも、梶川夫婦を罵っても事態は何一つ改善しないわけですし)。この争いは明らかに勝負あったと見えるのですが・・・
しかし、意外にも後半、売春宿のゴミ出しを張り続けた音羽が危険を顧みず飛び出してゴミ袋からアランヤーを救出し、警察内の密告者の情報で社会福祉センターの職員が暗殺された後集会で事実をアピールするナパボーンの決然とした態度、警察の摘発といった流れで、むしろ音羽側に正義がほほえみます。このことを決定づける衝撃の事実も登場しますし。
自己満足的行動をとっていた自分探しのお嬢さんに正義が微笑み、着実な大義を実行しようと大人の対応をとっていた記者が敗北し、手術を受ける子どもの親も苦渋の選択を迫られ、人身売買組織の人買いも被害者としての過去を持つというように、様々なことを考えさせられ、簡単には答えが出ない問題提起がなされています。どうにも救いようがなく悪いのは人身売買組織のボスと児童買春する客(欧米人ともちろん日本人)くらいです。単純な勧善懲悪ではなく、スッキリしませんが、深い。罪深い。業が深い。
さすがにあんまりなネタバレなので明言しませんが、ラスト間際に登場する衝撃の事実は、しばらく茫然とし、見間違いかとさえ思ってしまいます。このラストには、日本人(男)にはいい格好させないという制作側の執念をも感じました。
ただ、南部の最後の行動と、ゲーオがすぐに逃げずに集会場にとどまり続けたことについては、見ていて疑問を感じました。
非常に重いテーマですが、映像的には予想したほど生々しい(グロテスクな)シーンはなく、ドラマとしてのできでもけっこういい線を行っていると思います。上映館を増やして2009年1月までの上映が決まっているそうですが、こういう映画にたくさんの人が足を運ぶということは、とてもいいことだと思います。
(2008.9.15記)
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