たぶん週1エッセイ◆
映画「よだかのほし」

 花巻を出て東京で一人暮らしする女性の故郷と父母への思いを描いた映画「よだかのほし」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、全国唯一の上映館新宿武蔵野館スクリーン3(84席)は5割くらいの入り。観客の多数派は男性一人客でした。ポルノでもオタクアニメでもないのにこの男性比率の高さは何?と思ってしまうくらい。

 幼いときに父(眞嶋秀和)を亡くし、10年前に自分が上京するときに再婚して家を出た母とはけんか別れして、それ以来一度も故郷に帰っていない28歳彼氏なしの塗料会社研究員本郷トワ(菊池亜希子)は、上司にも直言して遠ざけられて職場でも浮いていた。ジョギング中に知り合った同郷の老婆町子(北上奈緒)が孫が花巻祭りで着るように届けたいという浴衣を見せてもらってほつれさせてしまったトワは、慣れない和裁に取り組み浴衣を直して町子に届けようとしたが、町子は予定していた日に現れない。花巻祭りに間に合わないと焦ったトワは一人で花巻に向かい、町子の言葉を頼りに町子が昔通った北上川・イギリス海岸沿いの喫茶店を訪ねるが、町子の孫は遠に成人して東京にいるという。呆然としたトワは仕方なく今は従姉夫婦が住む生家を訪ねるが・・・というお話。

 タイトルにも用いられている宮沢賢治の童話「よだかのほし」は、トワが幼いころ繰り返し父親に読んでもらった想い出の場面と、父親が死んで「よだかのほし」のように星になったと母親に聞かされたトワがどうやったら父親に会える、宇宙飛行士になれば会えるかと聞く死んだ父親への思いを象徴しています。「28歳彼氏なし」とはいえ、トワ自身がよだかだという映画ではない、と私は思います。
 幼いときに死んでしまったという条件とはいえ、娘に本を読み聞かせた想い出をここまで胸に刻み込み大切に思い続けてもらえるのは、父親冥利に尽きるでしょうね。娘を持つ父親としては、トワが繰り返し幼いときの父親の姿を思い出し慕い続けるシーンにウルウルしてしまいます。父親世代の男以外の目には、度しがたいファザコンと映るのかもしれませんが。

 同僚の佐藤(深水元基)との関係は、ちょっとじれったい気もするけど、いい感じともいえます。トワがプラネタリウムの前で待っていたけど現れなかったのは誰かなというのが気になりましたけど。

 前日見た「ライク・サムワン・イン・ラブ」とは対照的に、行き詰まったトワが故郷を訪れることで前向きな気持ちになれる、何とかなるさ的な映画で、劇的な展開はなく叙情的な流れですが安心できます。

 父親が吹いていた龍笛が(最初と)終盤で象徴的な道具として登場しますが、町内の祭り囃子で龍笛を吹くんだろうか、トワが昔取った杵柄のフルートよりも練習したこともない龍笛の方がすっと音が出るのはなぜとか、気になってしまいました。

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