庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
弁護士とクールビズ
 私は、好みとして言えば、昔から背広やネクタイは好きではありません。ですから、心情的には、クールビズ大賛成です。理屈としても、原発反対の裁判やってるわけですから、もちろん、大賛成です。
 しかし、では平日に上着なし、ノーネクタイを実践できるかというと、そうも行きません。ネックは裁判所と依頼者・相談者です。
 裁判では、結局は裁判官が判断するわけですから、弁護士は、当然、裁判官に悪い印象を持たれたくはありません。状況によっては、厳しいやりとりをすることもありますが、それはあくまでも証拠の評価や事件の見方、法律解釈の話で、それ以外の場面で悪く思われるのはバカらしいですし。何といっても、自分だけなら、いいんですが、結局は弁護士は依頼者の代理人として活動しているわけです。自分が裁判官に嫌われると、それは、依頼者に不利に働きます。そうすると、やっぱり、無難にという思いが先に立ちます。
 裁判官も、現実には、気を遣ってくれる人が多くて、夏の法廷で背広を着ていると「暑いですから、上着は脱いでくださって結構です」と言う場合が少なくありません。でも、すべての裁判官がそう言ってくれるわけではありません。そして、もちろん、裁判官はそれで法服(黒服)を脱ぐわけではありません。言うまでもないかとは思いますが、「暑いですから、ネクタイも外してください」と言われたことはありません。そうすると、やっぱり、上着は着ていって、裁判官からどうぞお脱ぎくださいと言われたらそこで脱ぐのが、標準的な行動になります。たぶん、最高裁が全国の裁判所と弁護士会宛に「夏は上着とネクタイの着用は遠慮されたい」というような文書でも出さない限り、裁判所(法廷)での弁護士のクールビズ実現は無理でしょう。
 そして、さらに大きな障害は、実は、依頼者・相談者です。私は、ここ十数年、弁護士会では法律相談センターの運営に携わっています。そこで相談者からのクレームなんかも受け付けるわけです。そのクレームの中には、弁護士がカジュアルな格好で相談していたというものもありました。どの程度カジュアルだったかというと、休日にデパートの法律相談を担当するときに上着を着ないでカーディガンを羽織っていたということでした。正面から苦情を言う少数の人の背後には、苦情は言わないけど不快に思っている多数の人がいるはずです。やはり、弁護士は、世間的には背広の上着を着ていることが期待されていて、そうでない格好で応対すると自分が軽く扱われていると思う人がいるわけです。そういうことから、私は、法律相談センターなどの外部の相談の当番の時は、どのような天候だろうと、例え気温が38℃だろうと上着を着ていきます。
 自分の事務所で会うときは、あまり上着は着ません。事務所で上着を着たまま仕事をしていることはほとんどありません(上着はハンガーにつるしています)ので、わざわざその時だけ着るのもめんどうだからです。自分のお客さんなら、「弁護士が上着を着ないのはけしからん」と思っている人と長続きするとは思えませんから、早めにお引き取り願った方がいいでしょうし。
 外での会議になると、相手次第です。会う相手が格好を気にしない人なら、休日に打ち合わせする場合は、それこそTシャツに綿パンで行くことも多々あります。原発訴訟とか運動がらみの労働事件の会議や打ち合わせなんか、大方そうしています。そういう場合は、参加者の中に初めて会う人がいたり、「今日はカジュアルな格好ですね」なんて言われても気にしないことにしています。もっともその種の事件でも集会で講演するとかいうことになると、やっぱり上着を着てネクタイして行きますけどね。
 そんなわけで、心情的にはクールビズを実践したいのですが、依頼者を背負って仕事をしたり(裁判所ではそうですね)、弁護士会の看板かかってたりするとそうも行きません。他の業界がうらやましく思えるこのごろです。
(2005.7.28記)

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