◆たぶん週1エッセイ◆
映画「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」
死を希望する患者の依頼による安楽死という重い問題をこのような乱暴なエンタメで扱うのは無理があると思う
写真と似顔絵だけで被害者とつながりのない被疑者が特定できるとしたら、一面で頼もしく一面で恐ろしい
中山七里の小説を映画化したサスペンス・アクション映画「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」を見てきました。
公開3日目日曜日、新宿ピカデリーシアター3(287席)午後1時50分の上映は8〜9割の入り。
子どもから父親が知らない医者に殺されたという110番通報を受け、葬儀場に駆けつけた刑事犬養(綾野剛)は、病死だと主張する妻の訴えを無視して棺を運び出し、解剖に回した。解剖の結果、遺体から多量の塩化カリウムが検出され、付近の監視カメラ映像でかかりつけの医者が往診して死亡診断をする前に訪問して立ち去った白衣を着た2人組を確認した犬養と高千穂(北川景子)は、妻の事情聴取を進め、闇サイトで末期患者の安楽死を請け負う「ドクター・デス」の存在を知るが、死者自身が希望して安楽死してドクター・デスに感謝している遺族の口は重く、捜査は進展しなかった。遺族の元にある安楽死を希望する本人の映像を繰り返し検討するうちに反射映像として残った撮影者の影を再現した警察は、聞き込みを進め…というお話。
死期が迫りペインクリニックでも苦痛除去ができなくなって自ら安楽死を希望している患者から依頼を受けて、報酬を受け取りもせずに、塩化カリウム注射で安楽死させるというドクター・デスの行為は、現行刑法上承諾殺人罪となり、処罰対象ではありますが、立法論としては処罰対象から外すこともあり得ないわけではなく、その評価は簡単ではありません。それを犬養のように「薄汚い快楽殺人犯」と言い放つことには、疑問を感じます。
この作品では、ドクター・デスを、11歳の犬養の娘を誘導し追い込み真意に反して死を希望させて殺そうとした件を捉えて快楽殺人犯と断罪していますが、その件はドクター・デスにとってきわめて例外的な犯行で、それを材料にドクター・デスの一連の行為を十把一絡げに断罪することには強い違和感を持ちます。
作品全体としては、直情径行、猪突猛進の犬養と、冷静沈着な止め役の高千穂のコンビで、ドタバタさせてエンターテインメントとしてうまくまとめていると思いますが、苦痛に苛まれて自ら死を希望し依頼した患者の安楽死という重い問題を、このような乱暴なエンターテインメントで扱うのは、無理があったと思います。
ぼやけた反射映像を加工して再現した写真1枚、合成した似顔絵1枚から被疑者が劇的に特定されますが、被害者の周囲の関係者であればともかく、もともと何のつながりもないドクター・デスを、公開手配でさえなく聞き込みで写真と似顔絵で絞り込めるというのは、無理があるように思えます。現実の捜査がそこまで進んでいるとしたら、一面で頼もしく、一面で恐ろしいことですが。
(2020.11.15記)
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