庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「キーパー ある兵士の奇跡」
ここがポイント
 敵対感情を露わにする周囲に対して、黙々と努力し結果を出していくことで認めさせて行くバートの姿がすがすがしい
 夫婦の危機をどう克服したか、もう少し描いて欲しかった気がする
    
 捕虜となったドイツ兵がイギリスでサッカー選手として活躍した実話を映画化した「キーパー ある兵士の奇跡」を見てきました。
 公開3週目日曜日、新宿ピカデリーシアター7(127席)午前11時の上映は、3割くらいの入り。
 カミさんに今週の新作は何?と聞かれたときに、伊藤健太郎(十二単衣を着た悪魔)か岡崎京子(ジオラマボーイ・パノラマガール)やね、交通事故の加害者(伊藤健太郎)と被害者(岡崎京子)の選択と言って誘導したのですが、岡崎京子に思い入れがまったくないカミさんに却下されて、まさかの選択に…(-_-;)

 イギリスにパラシュート部隊の一員として潜入し捕虜として捕らえられたドイツ兵バート・トラウトマン(デヴィッド・クロス)は、収容所でタバコ欲しさにPKを止められなかったら4倍にして返すと賭けをしてことごとく止めたところを地元のサッカーチームの監督ジャック(ジョン・ヘンショウ)に見いだされ、降格の危機にあったチームに連勝をもたらした。ジャックはバートを自ら経営する店でも働かせ、ドイツ軍の空襲でクラブでのダンスもままならなくなったことや、周囲の遺族感情などからドイツ人を憎んでいた娘のマーガレット(フレイア・メーバー)は反発するが、バートと言葉を交わし、妹がバートになついている様子を見るうちに次第に心を開いていった。ドイツ兵の帰還が決まり収容が解かれた後最後の試合として臨んだカップ戦でもバートは活躍し、視察に来ていた名門クラブマンチェスター・シティの監督から入団テストを受けるよう勧められる。マーガレットと結ばれ、マンチェスター・シティに入団したバートは、記者会見で記者からナチスとの関係を問い詰められ、鉄十字勲章を受けていたことを暴露され、記者と地元民の激しい非難を浴び…というお話。

 観客としてはバートの視点ないしはバートに同情的な視点で見ることになりますので、バートを非難するイギリス人、ユダヤ人の言動を愚かしいことと見たり、否定的に評価しなくても痛ましいことと見ると思います。しかし、シベリアで抑留された日本兵や、中国で置き去りにされた日本人が経験したことや、日本軍に捕らわれた敵国の捕虜がどのような虐待・虐殺を受けたか(それを実行した人々がBC級戦犯とされたわけです)を考えれば、ドイツ軍の空襲等で多くの人々が命を落とし、ユダヤ人が虐殺されていた時代にドイツ兵であったバートがこの作品で描かれている程度の仕打ち、非難で済んだのであれば、むしろ幸運だったと言うべきでしょう。おそらくは、実際にはもっと酷い目に遭ったことと思われます。
 ドイツ兵故の敵視、非難とは別に、この作品では、マーガレットとの夫婦生活の危機が訪れ(その原因・経過は秘しておきます)、そこを2人がどう乗り越えたかに興味を持ちましたが、そこは見ていてよくわからず、少し欲求不満が残りました。実話の映画化なので、話を作るわけにも行かず、実際には時が解決したということかなと思いますが。

 人々の信頼を勝ち取る道は、言葉ではなく黙々と努力し成果を出すことだということが示されています。そういった事情もあるのでしょうけれども、バートがサッカーの聖地ウェンブリーでの大一番で重傷を負いながら、何度も立ち上がる姿は、過剰な精神主義、ど根性もののようです(私たちの世代には、「立つんだ、ジョー!」のイメージ)。
 たぶん、当時のボールを再現しているのでしょうけれども、ボールが重く弾まないので、サッカーにスピード感がなく華麗なボール捌きや速いパス回しが見られません。別の競技を見ているみたいとまでは言いませんが、現代サッカーのスピードが器具(ボール)の技術的な発達の成果なのだと改めて感じました。
(2020.11.8記)

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