◆活動報告◆
松本サリン事件10年アピール
国は、オウム真理教の事件被害者に対して適切な補償をされるよう求める
要 請 の 趣 旨
1 国は、一連のオウム真理教事件被害者に対して、民事的な被害回復のための特別法を制定されたい。
2 国は、松本サリン事件および地下鉄サリン事件被害者らに対して、継続しての健康診断、治療・療養看護のための適切な措置・補償をなされたい。
要 請 の 事 情
1 6月27日、松本サリン事件から、10年が経過する。同事件は、オウム真理教による化学兵器サリンまで使った最初の無差別殺人事件であり、国家に対するテロ攻撃であった。この間、個々の犯罪者に対する摘発と裁判は進み、麻原彰晃こと松本智津夫被告を首謀者とする一連のオウム真理教事件は、本年2月27日の同被告への死刑判決をもって、一審の刑事判決がすべて言い渡された。
この判決は、同人が一連の事件の首謀者であること、日本国を支配することを目指して一連の事件が起されたことを認定している。
すなわち、同判決は、その量刑の理由の中で、次のとおり判示している。
「被告人は,自分が解脱したとして多数の弟子を得てオウム真理教(教団)を設立し,その勢力の拡大を図ろうとして国政選挙に打って出たものの惨敗したことから,今度は教団の武装化により教団の勢力の拡大を図ろうとし,ついには救済の名の下に日本国を支配して自らその王となることを空想し,多数の出家信者を獲得するとともに布施の名目でその資産を根こそぎ吸い上げて資金を確保する一方で,多額の資金を投下して教団の武装化を進め,無差別大量殺りくを目的とする化学兵器サリンを大量に製造してこれを首都東京に散布するとともに自動小銃等の火器で武装した多数の出家信者により首都を制圧することを考え,サリンの大掛かりな製造プラントをほぼ完成し作動させて殺人の予備をし(サリンプラント事件),約1000丁の自動小銃を製造しようとしてその部品を製作するなどしたがその目的を遂げず,また,小銃1丁を製造した(小銃製造等事件)。 そして,被告人は,このような自分の思い描いた空想の妨げとなるとみなした者は教団の内外を問わずこれを敵対視し,その悪業をこれ以上積ませないようにポアするすなわち殺害するという身勝手な教義の解釈の下に,その命を奪ってまでも排斥しようと考え,しかも,その一部の者に対しては,教団で製造した無差別大量殺りく目的の化学兵器であるサリンあるいは暗殺目的の最強の化学兵器であるVXを用いることとしてその殺傷能力の効果を測るための実験台とみなし,弟子たちに指示し,以下のとおり,一連の殺人,殺人未遂等の犯行を敢行した。」 そして、同判決は、松本サリン事件、地下鉄サリン事件がはっきりと「無差別テロ」であると認定している。
「被告人の犯罪は,以上のような特定の者に対する殺害等にとどまらず,化学兵器であるサリンを使用した不特定多数の者に対する無差別テロにまで及ぶ。すなわち,被告人は,弟子たちに指示し,教団で新たに造った加熱式噴霧装置の性能ないしこれにより噴霧するサリンの殺傷能力を実験的に確かめておこうと考え,その実験台として仮処分事件で教団松本支部の建物を当初の予定より縮小させる原因を作ったなどとして敵対視してきた長野地裁松本支部の裁判官を選び,同支部裁判所宿舎を標的として同宿舎及びその周辺にサリンを発散させ,住民ら不特定多数の人々を殺害し,かつ,殺害しようとしたがサリン中毒症を負わせたにとどまりその目的を遂げず(7人を殺害し,4人に重傷を負わせた。松本サリン事件),また,阪神大震災に匹敵する大惨事を引き起こせば,間近に迫った教団に対する強制捜査を阻止できると考え,東京都心部を大混乱に陥れようと企て,地下鉄3路線5方面の電車内等にサリンを発散させて乗客,駅員ら不特定多数の人々を殺害し,かつ,殺害しようとしたがサリン中毒症を負わせたにとどまりその目的を遂げなかった(12人を殺害し,14人に重傷を負わせた。地下鉄サリン事件)。」
この判決から明白なとおり、一連の事件は、麻原彰晃こと松本智津夫被告が首謀者であり、日本国の支配を目指していた事件の一環であり、特に松本、地下鉄両サリン事件は、明らかな無差別テロ行為であった。このことは、他の被告人に対する判決においても、表現の違いはあれことごとく判示されており、その旨の確定判決も多くある。
2 すなわち一連のオウム真理教被害者は、まさに国家になり代わって、具体的には総理大臣を初めとする日本国の指導者らになり代わって、命を落とし、傷を負い、財産を失い、また今も重態にあるのである。
たとえ松本被告の「空想」であろうとも、世界を震撼させた化学兵器サリンまで使ってこれを目指したことは明確に認定されていることからすれば、日本国という国家に対する犯罪として遇すべきこともまた明白なのである。
しかるに、日本国は、かかる被害者に対して、現在のところ、ごく一部の犯罪被害者給付金等の支給等に関する法律に基づく補償をしただけで、それ以外一切の補償は出していない。また、国によって継続しての健康診断、治療・療養看護のための適切な検査、補助もない。
すなわち、通勤途上の被害者に対して労働災害保障保険法に基づく填補、各年金法にもとづく障害認定に基づく填補、その他の制度の適用はあるが、これらは国家の補償ではなく、それらの制度に基づくものに当然の権利であり、一部の被害者に対する一部の填補でしかないのである。松本、地下鉄の両サリン事件の被害者らに対しても、 健康診断、治療・療養看護の措置もあまりに不十分であって、補償はないままであるところ、被害の深刻さ、前記の通りの事件経緯からして、被害者・国民はもちろん、諸外国に対してもまったく恥ずかしい対応である。
3 ところで、宗教法人オウム真理教については、破産手続きが進行して来た(東京地方裁判所平成7年(フ)第3694号、3714号事件)。
同破産事件に関しては、平成10年4月24日成立の「オウム真理教に係る破産手続きにおける国の債権に関する特例に関する法律」及び同様の各自治体の条令により税金等債権が損害賠償請求権に劣後することとなったが、これはオウム真理教事件の悲惨さそれ自体からして、まったく当然の措置にすぎない。
また、平成11年12月7日成立の「特定破産法人の破産財団に属すべき財産の回復に関する特別措置法」によって、オウム真理教が名を変えたに過ぎない「宗教団体アレフ(後にアーレフ)」の財産は、同法人から流出したものと推定された結果、同団体と破産管財人との間で和解ができたが、そもそもかかる犯罪行為をした団体の現有財産をあてにすることは、この団体の存続を前提があって賠償が尽くされるものであり、これに便乗してアーレフが存続しようとしていることから分かるように、本来適切でない。被害者らとしては、同宗教団体が活動を継続して資金を獲得しつつその一部を弁済に回すというのは、本末転倒であるから、もともと納得できることでもない。
なお、同特別措置法は、同日制定された「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」の実効を期すべく、同団体を金銭面から監視する趣旨もあったとも理解するが、本来その制度趣旨は別のものであったはずである。
結局、上記各法律の制定と破産管財人団の努力によるも、被害者らへの配当率は現在のところ30.67%にすぎず、サリン事件等の被害者賠償債務に限ってみても、25億1042万6789円が未払いである。前記の宗教団体アーレフからの前記の破産管財人との和解契約に基づく支払いも滞り、今後、約定が守られることは到底、不可能な状態となっている。
4 さらに、一連のオウム真理教事件の捜査について、警察の捜査があまりに不十分であったことは、周知の事実でもある。一つひとつの事実関係まではここに記述しないが、あまりに不十分であったことは明白であり、このことは警察庁、警視庁、神奈川県警などの責任者も各所で一部なりとも認めているのであり、それが国民的な認識でもある。
かかるときは、尚いっそうのこと、国家の信頼を回復すべく、国民を守るはずの国家への信頼を、これ以上傷つけることのないようにしなければならない。
5 およそ、いかに金銭的な補償があっても、失われた命は戻らず、後遺症を残す被害者の苦悩はなくならない。
国家として、オウム真理教による国家に対する一連の事件によって多大な被害をこうむった本人、遺族らに対してせめてもの補償をなすは、国家の責務である。国家は、その被害者の痛みに少しでも寄り添ってこそ正当性を維持できると確信する。
しかしながら松本サリン事件から明日で10年をたとうとする今日に至ってもなお、一連の被害者らへの救済は遅々として進んでいない。これは国家としての怠慢とも言える。
よって国においては、松本サリン事件および地下鉄サリン事件被害者らに対して、継続しての健康診断、治療・療養看護のための適切な措置・補償をされたく、また一連のオウム真理教事件被害者に対して、民事的な被害回復のための特別法を制定されたく、要請する。
なお、この補償により、前記破産財団に対する損害賠償請求権が国のものとなり、国自体として、宗教団体アーレフなどに対して民事的な面からも対応することをあわせて希望する。
2004年6月26日松本サリン事件遺族団
松本サリン被害者弁護団
弁護団長 弁 護 士 伊 東 良 徳
事務局長 弁 護 士 紀 藤 正 樹
地下鉄サリン事件被害者団
地下鉄サリン事件被害対策弁護団
弁護団長 弁 護 士 宇都宮 健 児
事務局長 弁 護 士 中 村 裕 二
坂本弁護士一家損害賠償請求弁護団
事務局長 弁 護 士 杉 本 朗
オウム真理教被害対策弁護団
事務局長 弁 護 士 小 野 毅
**_****_**