◆短くわかる民事裁判◆
仮執行宣言について判断し忘れたとき
民事訴訟法第259条第1項は「財産権上の請求に関する判決については、裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる。」と定めています。
そして、「仮執行の宣言は、判決の主文に掲げなければならない。」と定められています(民事訴訟法第259条第4項前段)。
実務上は、原告は、裁判所が通常仮執行宣言を認めない請求以外については、訴状の請求の趣旨で仮執行宣言を求め、裁判所はその申立てにより、必要な場合、金銭支払を命じる部分については多くの場合に、担保を立てさせることなく仮執行宣言をつけるという運用がなされています。
仮執行宣言をつけるときの判示は、判決主文の最後に、「この判決は、第○項に限り、仮に執行することができる。」とし、理由の最後に「仮執行宣言につき民事訴訟法第259条第1項を適用して、主文のとおり判決する。」と結ぶのが通例です。
裁判所が仮執行宣言をつけないときは、主文では仮執行宣言に触れずに、理由の末尾の方で「仮執行宣言は相当でないから、これを付さないこととする。」などとするのが通例です。
これらの判示があるときは、裁判所は、仮執行宣言について、認めるにせよ認めないにせよ、判断をしていることになります。
裁判所がこの判示を落としてしまったときはどうなるでしょうか。
民事訴訟法第259条第5項は、「仮執行の宣言の申立てについて裁判をしなかったとき、又は職権で仮執行の宣言をすべき場合においてこれをしなかったときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、補充の決定をする。」と定めています。
この規定により、当事者(原告)の申立てがあったのに仮執行宣言について判断をし忘れた場合でも、裁判の脱漏として訴訟の一部が原裁判所に残っていて追加判決をする(民事訴訟法第258条第1項:「裁判の脱漏(さいばんのだつろう)」と呼ばれています)という扱いではなく、判決とは別に、決定をするということになります。
その場合、仮執行宣言についての補充の決定は、判決の更正決定と同様に、判決書の原本及び正本に付記するか、決定書を作成してその決定書正本を当事者に送達することとされています(民事訴訟規則第160条)。
判決については、モバイル新館の「弁論の終結と判決」でも説明しています。
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