◆短くわかる民事裁判◆
判決の更正:当事者の表示
判決の既判力は、「1 当事者、 2 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人、 3前2号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人、 4 前3号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者」に対して及ぶと定められています(民事訴訟法第115条第1項)。判決で当事者として記載する者を誤った場合、本来裁判で解決しなければならない紛争当事者に判決の効力が及ばないということになりかねませんし、せっかく判決を得ても強制執行ができない(こちらは当事者そのものを誤った場合だけでなく、正しい当事者を記載しても氏名や住所の記載に誤りがあるとそうなりかねません)ことになります。
当事者の死亡等の場合、口頭弁論終結後の承継人(相続人等)には既判力が及びます(民事訴訟法第115条第1項第3号)が、口頭弁論終結前の承継人には当然には既判力が及びません。
最高裁1967年8月25日第二小法廷判決は、当事者(被控訴人)が控訴審係属中(口頭弁論終結前)に死亡していた場合、訴訟代理人がいる限り訴訟手続の中断・受継の必要はないが、判決には死亡した当事者ではなく新当事者である相続人を表示すべきとして、職権で「本件上告を棄却する。但し、原判決の当事者の表示中『被控訴人D』とあるを『被控訴人D相続人B』と更正する。」として当事者の表示を更正しました。
最高裁1972年6月2日第二小法廷判決は、権利能力なき社団の代表者が原告となって移転登記手続請求訴訟を提起して第1審で勝訴した後、控訴審係属中に死亡して代表者が交代していたところ、控訴審は控訴を棄却したのみで第1審判決の主文の訂正をしなかったばあいについて、「被上告人による訴訟の承継によつて、第一審判決が上告人から第一審原告Eに対してなすべき旨を命じた本件土地および建物についての所有権移転登記手続は、上告人から新当事者である被上告人に対してなされるべきものとなつたから、原審が上告人の控訴を棄却するにあたつては、その旨を原判決の主文において明記するのが相当であつたといわなければならない。しかるに、原判決はこれを遺脱しているので、民訴法194条に則り、当審において、本判決主文第二項、第三項のとおり原判決を更正し、このことを明らかにすることとする。」と判示し、本件上告を棄却する。原判決の主文を次のとおり更正する。原判決主文に第二項として次の一項を加える。第一審判決主文第一項を、『控訴人は被控訴人Bに対し、第一審判決別紙物件目録記載の土地および建物につき、それぞれ所有権移転登記手続をせよ』と変更する。」として第1審判決の主文を更正しました。
※判決引用の民事訴訟法第194条は現在の第257条に当たります。
これらの判決は、口頭弁論終結前に当事者の承継(交代)があったこと見過ごして前の当事者を判決で表示してしまった場合、判決の更正の手続で更正できること、その更正は、その判決をした裁判所だけではなく、上訴審でもできることを示しています。
判決については、モバイル新館の「弁論の終結と判決」でも説明しています。
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