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短くわかる民事裁判◆
判決正本
 判決が言い渡された後、裁判所の記録には判決をした裁判官が署名押印した判決書(はんけつしょ。裁判業界では「はんけつがき」と読むことも多いです)の原本が保存されます(永久保存)。当事者(原告、被告)やその代理人には、判決正本(はんけつせいほん)が交付されます(民事訴訟法第255条)。
 判決正本は、判決書と同じ内容を記載して、書記官がこれは正本であるという認証文をつけて(書記官が)記名押印します。作成方法は決まってはいませんが、判決文と裁判官の氏名がすべて活字印刷されたものに認証文をつけたものか、判決書原本をコピーしたらしき裁判官の手書きの署名と押印がなされたもののコピーに認証文をつけたものが多いです。認証文は、最後にそれ用の1枚紙をつける場合が多いですが、判決書の1枚目の空きスペースにゴム印で認証文をつけて押印しているものもあります。判決書のコピーとの違いは、書記官の押印があることと、左側に「裁」の字の形のパンチがなされていることです。
 強制執行をする場合は、判決正本が必要です(判決正本のコピーではできません)。判決正本をコピー等するためにホチキス止めを外しても特に問題はありません。「裁」の字のパンチとページが振ってあるので、ホチキス止めをいったん外したからといってそれで捏造が疑われるということにはなりません。また、判決正本を紛失した場合、再発行申請をすれば裁判所が判決正本を作ってくれます(ただし、そのときは手数料として1枚あたり150円がかかります)。(大阪地裁が公開している判決正本の再交付申請書はこちら

※送達された判決正本に裁判官の署名押印がないから無効だ、それを控訴理由にできないかという相談を受けたことがあります(複数回)。
 確かに、民事訴訟規則(第157条)が裁判官が署名押印をしなければならないと定めているのは「判決書」で、判決書の原本とは書かれておらず、民事訴訟規則(第159条)は「判決書」を送達すべきことを定めていますので、民事訴訟規則の条文上は当事者に送達する判決正本に裁判官の署名押印が必要と読む余地がないでもないように見えます。しかし、裁判業界の通常の用語法として、書証等では作成者の署名押印があるものが「原本」であり、民事訴訟法は判決書の「原本」と「正本」を区別し(第252条、第255条第2項等)、当事者への送達は判決書の正本によるとしている(第255条第2項)ことからすれば、当事者に送達する判決正本には裁判官の署名押印は求められていないと考えるのが常識的です(業界内の考えに過ぎないと言われるのかも知れませんが)。現実に上訴の理由としてそういうことを主張した方もいるようですが、排斥されています(最高裁1973年10月18日第一小法廷判決最高裁1965年3月23日第三小法廷判決など)。

 判決については、モバイル新館のもばいる 「弁論の終結と判決」でも説明しています。
  

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