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短くわかる民事裁判◆
判決後の受継決定に対する不服申立て
 判決後、特に控訴審判決の判決後判決確定前に敗訴した当事者が死亡した場合、訴訟手続は中断し、相続人等が訴訟手続を受継すべきこととなります(民事訴訟法第124条第1項第1号)。相続人の場合は、当然に受継すべきこととなりますが、相続人が受継の申立をしない場合は、相手方の受継申立てまたは職権で相続人に対して受継(訴訟手続の続行)を命じることになります(民事訴訟法第128条、第129条)。
 この受継決定自体に不服がある場合、受継申立ての却下決定に対しては、口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した決定なので、これに対しては通常抗告をすることができます(民事訴訟法第328条第1項)が、受継決定は訴訟手続を続行する決定なので終局裁判ではなく、即時抗告ができる規定もないので、独立に不服申立てをすることができないと解されています。民事訴訟法第283条本文は「終局判決前の裁判は、控訴裁判所の判断を受ける。」と定め、これは民事訴訟法第313条により上告審にも準用されますが、判決後の受継決定は終局判決前の裁判といえるでしょうか。

 最高裁1973年3月23日第二小法廷判決は、原告が金銭請求の訴訟を提起して勝訴し、被告が控訴したが、1970年9月3日に控訴棄却(被告敗訴)の判決を言い渡し、その判決正本が被告に送達されないまま1970年12月23日に被告が死亡して訴訟手続が中断し、原告(被控訴人)が1971年6月7日に被告(控訴人)の上告人を被告(控訴人)の相続人であるとして受継の申立をし、6月9日に控訴裁判所が受継の決定をして、6月14日に控訴棄却の判決、受継決定、受継申立書副本を上告人に送達し、1971年7月1日に上告人が東京家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、1971年10月12日に申述受理の審判がなされたという事案で、「控訴審の終局判決言渡後判決正本の送達前に訴訟当事者が死亡したため訴訟手続が中断した場合において、相手方当事者の受継の申立に基づき、新当事者に対し訴訟手続を受継すべきことを命ずる決定があつたときは、右受継決定に不服のある新当事者は、終局判決に対する上告をもつて適法に右受継決定のみの破棄を求めることができるものと解するのを相当とする。」と判示して、控訴審判決自体には不服がない場合であっても、受継決定のみの破棄を求めて控訴審判決に対して上告して受継決定を争えるとしました。そうしないと受継決定を争う機会がないということが理由とされています。
 その上で、この判決は、控訴棄却の判決等が送達されて初めて上告人が「自己のために相続の開始があったことを知った」のであれば相続の単純承認をしたとみなされる事由等がない限り相続放棄は有効で上告人は被告(控訴人)を相続しないから本件訴訟手続を受け継ぐ者ではないことになるとして、受継決定を破棄し、東京高裁に差し戻しました。
 形としては、控訴棄却の判決に対する上告を認めたということで、例外ではないともいえますが、実質は受継決定自体について判断し、判決主文としても原判決ではなく受継決定を破棄しているという点で、通常想定されている上告の対象でないものについて上告を認めた例となっています。

 上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「最高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。

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